抄録
【目的】
脳梗塞患者の回復期における機能・能力回復に影響を与える要因として,麻痺の程度,高次脳機能障害,入院期間があると報告されているが,併存疾患や入院中のイベントとの関係を調査した報告は少ない.本研究では,脳梗塞患者の退院時ADLに影響を及ぼす要因をより詳細にとらえることを目的に,当院で加療を行った脳梗塞患者の実態を調査したので報告する.
【対象及び方法】
平成18年4月1日から平成19年3月31日に当院で入院加療を行った初発脳梗塞患者で入院前ADLが自立していた60名(男性40名,女性20名,平均年齢72.3±10.2歳)である.方法はカルテ調査とし,調査項目は,入院期間,Barthel Index(以下,B.I),痴呆老人の日常生活自立度(以下,痴呆度),Brunstrom stage(以下,Br.stage),感覚障害,高次脳機能障害,転帰先,介護保険,併存疾患,入院中のイベントである.統計処理は,χ2</sup>検定及び相関分析を用いた.
【結果】
退院時B.Iは, Br.stage・高次脳機能障害の有無・入院期間・入院時B.Iと関連を認めた. また,できるADLとしているADLをみると,B.Iの各項目の中で,階段昇降・トイレ動作・排便管理・移動は相対的にみて一致率が低かった.さらに,セルフケアは介護度と強い相関を,排泄管理は痴呆度・Br.stageと,移乗・移動はBr.stageとやや強い相関を認めた.
併存疾患である運動器疾患・呼吸器疾患・循環器疾患・その他の内科疾患の有無は,いずれも退院時B.Iに影響を及ぼさなかった.また,入院中イベントとして,変形性膝関節症増悪・内科疾患発症・狭心症発作・心不全再燃・脳梗塞再発が8名に認められた.入院中イベントが有る症例は,無い症例に比べ,併存疾患を持つ症例が多く,同時に入院期間の延長を認めた(p<0.05).
【考察】
退院時ADLに影響を与える要因は,先行研究と同様,麻痺の程度,高次脳機能障害,入院期間であった.全ADL項目の中で,中等度から重症症例では最もセルフケアが,認知症症例は,排泄管理が獲得困難であった.また,階段昇降やトイレ動作,排便管理,移乗,移動は,訓練場面や日中と夜間の差が大きく,できるADLをしているADLへ繋げていく環境整備や情報共有へのアプローチを再度検討する必要があると考える.
併存疾患が有る症例は,入院中のイベントを生じやすく,入院期間が延長し易いが,退院時B.Iには影響を及ぼさなかった.これは,体調不良時も可能な範囲で廃用症候群予防や機能・能力回復といったアプローチを行っていることの効果を反映したものと推察する.今後も,引き続き入院中のイベント発生の予防や入院期間の短縮を目標としたアプローチの検討へ繋げていきたい.