理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 1702
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内部障害系理学療法
急性心不全を呈した単心室症例のリハビリテーション経験
その病態の考察
森島 優中村 重敏入澤 寛山内 克哉美津島 隆
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抄録
【はじめに】単心室は,両房室弁あるいは共通房室弁が機能を有する1つの心室に結合する心奇形である。今回我々は,外科的治療が非適応となり保存的加療されていた単心室症例の,急性心不全後の理学療法を経験した。その経過から,病態の考察を報告する。尚,本報告にあたり本人に対し趣旨を説明し同意を得た。
【症例 20歳代男性】身長169cm,体重62kg。診断名:肺炎,急性心不全。現病歴:出生時よりチアノーゼ,心雑音が認められ,単心室・肺動脈閉鎖症・動脈開存症と診断されたが,肺高血圧症を認めたため根治手術の適応とならなかった。しかし,肺炎・心不全にて入退院を繰り返し,当院小児科にて経過観察されていた。200×年10月,呼吸困難に陥り救急車にて当院搬送。上記診断にて当院小児科緊急入院となった。挿管,人工呼吸器管理,昇圧薬,抗菌薬投与を開始した。その後呼吸循環動態は徐々に改善し,第10病日に離床目的にて当科受診となった。
初診時,血圧136/62mmHg,心拍数84bpm(洞調律),酸素5ℓ/分マスク投与下でSpO285%。筋力はMMTで両上下肢4,基本動作は自立,ADLは移乗自立しポータブルトイレを使用していた。心電図は洞調律,右室肥大及び完全右脚ブロックを認めた。心臓MRIでは,両心室は連続し,内腔は粗大肉柱形成を認めた。心臓エコーでは,駆出分画は55%,壁運動は良好であった。動脈血液ガスは,pH7.464,PaCO2 42.0Torr,PaO2 30Torrと著明な低酸素血症を認めた。以上の評価結果より,SpO2の下限は80%とし徐々に運動耐容能を向上していく方針で訓練を開始した。結果,歩行距離は徐々に拡大することが可能となったが,SpO2は80%以下と低値を示した。そして第40病日,運動前後の血中乳酸値(以下Lt)測定を実施した。運動は100m×2の歩行,階段昇降1フロアとし,速度は快適と感じるペースとした。
【結果】SpO2は安静時78%から歩行後70%,階段昇降後57%に低下するものの,Ltは運動前1.92mmol/ℓ,運動後2.04 mmol/ℓとほぼ変化しなかった。
【考察】SpO2が低値にも関わらず運動継続が可能だった理由として,運動前後のLtに変化を認めないため,末梢組織で酸素は充足していたと考えられる。これは慢性的な低酸素血症による2,3-DPG増加によるヘモグロビン-酸素解離曲線の右方偏位のため,運動時末梢組織での酸素放出が促進されていた可能性が考えられる。しかし,他臓器への影響も考慮すれば可能な限り高値を維持するのが望ましいと考えられた。



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