理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: C-S-06
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セレクション口述発表
ディシジョンツリー分析を用いた人工股関節全置換術後在院日数予測モデルの構築
山口 良太中村 瑠美藤代 高明林 申也神崎 至幸橋本 慎吾酒井 良忠
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抄録
【目的】 人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty: THA)は手術方法や手術器材の進歩により術後在院日数(以下、在院日数)の短縮が著しく、術後2週間のクリニカルパスを導入する医療機関が増加している。しかし、大学病院におけるTHA患者では、他の医療機関において高齢や併存疾患によるリスクを指摘された場合や再置換術症例であるなど、在院日数を単純に短縮できない要因が多く存在する。そこで、当院において過去に再置換術を含むTHAを施行された患者における診療録を後方視的に調査し、術後在院日数に影響を与える要因について多変量解析を用いて抽出した。さらに、抽出された項目をデータマイニング手法の一種であるディシジョンツリー分析を用いて術後在院日数予測モデルを構築することを目的とした。【方法】 対象は当院において2009年4月から2012年9月までに再置換術を含むTHAを施行された患者女性122名、男32名の計154名(平均年齢67歳)、173股とした。この内、在院日数が100日を超えた2名2股および在院中に死亡した2名2股を調査から除外した。調査方法は、電子診療録を使用して術前から採取可能な以下の項目および術後在院日数を後方視的に調査した。一般情報として性別、年齢、身長、体重、同居人、職業の有無、術前歩行様式、医学的情報として診断名、THA回数、併存疾患数、術側および非術側の日本整形外科学会股関節機能判定基準点数(JOA score)および術前ヘモグロビン値とした。これらの項目を説明変数とし、従属変数に術後在院日数を投入した多変量解析(ステップワイズ法)を行い、術後在院日数に影響を与える項目を抽出した。さらに抽出された項目を説明変数、術後在院日数を従属変数としてChi-squared Automatic Interaction Detection (CHAID)アルゴリズムに基づいたディシジョンツリーを作成し、算出された予測在院日数を23日以内(3週パス)、24~30日(4週パス)、31~37日(5週パス)、38日(6週以上)の4グループに分類した。すべての統計解析はSAS Institute Japan社製jmp7を使用し、統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】 本研究は後方視的研究であり、全ての患者からの同意が得られないため神戸大学医学倫理委員会の指針および臨床研究に関する倫理指針(厚生労働省)に則り、診療録から得られた個人情報を目的達成に必要な範囲を越えて取り扱わず、匿名化したデータベースにして解析を行った。【結果】 全対象患者の術後在院日数の中央値は33日であった。多変量解析の結果、術後在院日数に影響を与える項目として手術回数(初回、再置換の2値)、年齢、術前歩行様式(独歩可とT字杖歩行可をgood、両松葉や老人車などをpoorとした2値)、非術側JOA score、併存疾患数の5項目が抽出された。これらの項目をCHAIDアルゴリズムに投入して作成されたディシジョンツリーを、矢印を用いて以下に記載する。最上位は”手術回数”であり、”初回手術”と”再置換”に二分された。3週パス達成モデルは、”初回手術”→”47歳以下”の1モデル(予測在院日数23.3日)のみであった。4週パス達成モデルは、”初回手術”→”47歳以上”→“歩行good”→“非術側JOA score68点以上”→“併存疾患数4以下”のモデル(予測在院日数29.6日)と”初回手術”→”47歳以上”→“歩行good”→“非術側JOA score68点以上”→“併存疾患数4以上”→” 63歳以下” (予測在院日数29.8日)の2モデルであった。同様に5週パス達成モデルは、”初回手術”以下で6モデル、”再置換”以下では1モデルのみであった。6週以上は、”初回手術”以下で2モデル、”再置換”以下で2モデルであった。【考察】 CHAIDアルゴリズムに基づくディシジョンツリー分析はデータマイニング手法の一種であり、従属変数の予測モデルを視覚的に理解しやすい利点があるとされている。本研究ではCHAIDアルゴリズムにより導かれた予測モデルを4つのグループに分類した。予測モデルでもっとも多く分類されたのは5週パスであり、術後在院日数の中央値が33日であることから妥当な結果であったと考えられる。ディシジョンツリー最上位は”手術回数”、その下位ノードには”年齢” ”歩行様式”と続いており、これらの結果は臨床における印象と一致していた。その他には”非術側JOA score”が選択されたことから、非術側の股関節機能が保たれていることが術後在院日数の短縮に寄与すると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果は、術前の患者情報から術後在院日数をグループに分けたモデル化を可能にするものであり、理学療法プログラムの実施やクリニカルパス作成および運用などに寄与できると考えられる。また、本研究で用いたデータマイニング手法を用いることで他の疾患や臨床症状などにも応用可能であることから、本研究の方法自体が理学療法学研究に寄与し得ると考える。
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© 2013 日本理学療法士協会
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