抄録
【はじめに】2000年4月に介護保険法が施行され,福祉用具の貸与および特定福祉用具販売が居宅サービスの1つとなった.それに伴い多種多様の福祉用具が開発され,サービス利用者の介護状態に適合した福祉用具が利用可能となった.しかし,介護施設内では福祉用具の活用導入に消極的な一面も多く,その活用状況に関する実態調査も十分行われていない.そこで移乗関連用具の活用状況について調査し,最も活用度の高かったトランスファーボードについて第1報で報告した.今回は,職種,経験年数等の違いによる活用状況を調査し,若干の知見を得たので報告する.
【調査対象と方法】東海3県の介護老人保健施設(224施設)のリハビリテーション担当者に対し,移乗関連用具4種類とリフト4種類,移動用具(車椅子)8種類の活用状況についてアンケート調査を実施し,95施設からの回答を得た(回収率42.4%).アンケート調査内容は,各用具について介護老人保健施設内での活用状況を調査し,さらに通所リハビリ対象者の在宅での活用状況についても調査した.
【結果】何らかの移乗関連用具の活用状況は,理学療法士(以下PT)28.3%,作業療法士(以下OT)36.4%であった.経験年数別では,PT・OTともに最も活用率が高かったのは経験年数6~10年のセラピストであった.また,最も活用率の高かった用具はトランスファーボードであった.
【考察とまとめ】移乗関連用具の活用目的は,利用対象者の動作を円滑にかつ安全にできうることにより,介助者の介護負担を軽減するとともに利用対象者の二次的障害をも防ぐことになる.また適切に活用することにより自立度を高めることも可能である.しかし,今回のアンケートから,移乗関連用具を活用しているのはPT・OTともに経験年数6~10年のセラピストが最も多く,次いで1~5年であった.これは1998年のカリキュラム改定により地域理学療法学・地域作業療法学が追加された事と関係があると考える.また,何らかの移乗関連用具を活用しているセラピストは介護老人保健施設に勤めているセラピストの僅か3割であり,さらに,活用されている移乗関連用具もトランスファーボードが半数以上を占め,他の移乗関連用具はあまり活用されていないという結果であった.アンケートに於て自由な意見を求めたところ,福祉用具に関する情報が少ないとの意見も多く寄せられたことより,今後は,移乗関連用具を含む福祉用具の必要性を理解し利用対象者に適合した用具が活用できるような,日本理学療法士協会や公的機関における研修会などの増加,および,理学療法士・作業療法士養成機関での講義が有効であると考えられる.