抄録
【はじめに】近年、高齢者の介護予防における各自治体の取り組みが盛んになっている。福岡県大牟田市においては2001年度よりモデル事業が行われ2004年度から高齢者筋力アップ教室(以下教室)に地域の理学療法士(以下PT)が事業協力している。今回2006年度事業の教室結果を検証するとともに事業を通してのPTの介入効果について検討を行ったので報告する。
【方法】対象は、2006年度市内7ヶ所で開催された教室に参加した市内在住の高齢者51名、平均年齢77.4.±5.8歳である。教室は1回90分、25回を1クール(3ヶ月)、その後のフォロー教室25回(3ヶ月)が行われ、マシンを使用したトレーニングおよび機能的トレーニング等が実施された。事前に担当者研修を受けた事業実施施設職員によって教室が進められ、大牟田市が養成した市民サポーター(一般高齢者)も関与した。PTは教室開始時、中間時、最終時、フォロー教室中間時、最終時にPT評価を実施し主に参加者の痛みのチェックや評価結果に基づく運動指導等を行った。教室1クール開始時、終了時にはそれぞれ体力測定が実施され、10m最大歩行時間、握力、ファンクショナルリーチ(以下FR)、長座位体前屈、開眼および閉眼片足立ち時間、Timed Up & Go Test(以下TUG)、膝伸展筋力の7項目を比較した。全ての統計処理は対応のあるt検定を用い、有意水準0.05%とした。
【結果】参加者には膝関節や腰部の痛みの訴えが多かったが継続した教室参加で痛みの軽減と活動性の向上がみられた。体力測定結果では有意な改善が認められたのは、10m最大歩行時間、握力、FR、TUG、膝伸展筋力であった。
【考察】介護予防事業では筋力増強に加え、バランスや歩行能力向上等を図る多角的取り組みが効果的とされ,継続性が重要とされている。今回、マシンのみならず機能的トレーニングを盛り込んだプログラム、グループでの定期的な取り組みが参加の動機付けに有効であったと考える。さらには市民サポーターの存在も重要な役割を果たしていたと考える。加えて体力測定結果のフィードバックや動作効率改善を体感することは参加者にとって運動の必要性を認識する上で重要であったのではなかろうか。
PTは膝関節や腰部を中心とする痛み、各種アライメント異常で個別対応、意見が求められた。手術既往、運動麻痺などのケースもあり、これらのケースでは医学的知識のもとに肢位選択や負荷決定等が必要とされ、代替プログラムの提案などでPTの介入が有効であったと考える。PTはこのような点で長けた職能集団あることを社会に積極的にアピールし、介護予防事業に関わっていくことが今後の職域拡大に重要である。一方で、今後の効果的関与のために知識、スキルの向上に努めていかねばならない。