理学療法学Supplement
Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: 734
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生活環境支援系理学療法
スウェーデンの高齢重度障害者は,なぜ真冬であっても快適に暮らせるのか?
人,モノ,環境による支援体制を探る
山口 真人
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抄録
【目的】気候の厳しい真冬のスウェーデンにおいて、自宅およびケア付き高齢者住宅に住む二人の維持期の高齢重度障害者を対象に、彼らの生活を支える様々な支援体制―人的な支援、補助器具による支援、さらには住宅改修や街中のつくりといった環境面の整備など-を調査して、彼らが真冬であっても快適に暮らせる要因について考察することである。

【方法】2007年2月、滞在した期間の平均気温が氷点下十数度であり、かつ数十センチの雪も積もっているスウェーデン東部の二つの自治体(サンドヴィーケン市とヤヴレ市)において、以下の二人の高齢で重度の障害を抱える維持期の障害者を訪問した。一人は、サンドヴィーケン市のアパートで一人暮らしをする多発性硬化症の女性であり、もう一人はヤヴレ市のケア付き特別集合住宅に住むパーキンソン病と慢性関節リウマチを患う男性であった。彼らの日常生活の全体像を把握するとともに、受けているケアやリハビリの内容、個人アシスタントや准看護師といった人的な支援、使用している補助器具の種類および数、住宅改修の内容、これらの人的および物的なサービスに対する自己負担額、さらには屋内外の環境整備といった事柄に関して調査をした。

【結果および考察】人的支援に関してだが、女性に対しては個人アシスタントおよび夜間パトロールチームが、男性に対しては准看護師らの職員が、それぞれ昼夜を問わず二人の日常生活全般を支援していると同時に、ルーティーンとしての簡単なリハビリもそれらの職員が施行していた。大きなリハビリ機器である自転車漕ぎ機(女性には電動による自動式、男性には自力式)がどちらにも無料でレンタルされていた。また、補助器具も数多く使われていた。女性のアパートでは、ベッドルーム、リビングルーム、トイレシャワールームの三箇所に天井走行式リフトが無料で備え付けられていた。男性の居室でも、立位介助式リフトが無料でレンタルされていた。女性のアパートにおける住宅改修としては、電動昇降式のキッチンと玄関前の車椅子用スロープが主なものだが、いずれも無料で備え付けられていた。さらに、女性と男性のいずれのアパートにおいても、自治体全体をカバーしているセントラルヒーティングシステムにより、外気温が氷点下であっても、屋内は肌着で過ごせる快適な暖かさが保たれていた。玄関前の車椅子用スロープ上や周辺の公共道路は常に除雪されていて、彼らの楽しみである電車や車を利用しての友人との会食やプール療法への参加といった外出も日常的に可能となっていた。以上より、スウェーデンでは、真冬であっても、重度の障害をもつ人々の日常の生活が制限されないように、可能な限りにおいて人的・物的支援および環境整備が叶えられていることが明らかとなった。
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© 2008 日本理学療法士協会
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