抄録
【目的】平成17年4月の新予防給付開始以降,多くの施設で運動器介護予防事業が実施されている.中でも,筋力トレーニングマシンを使用しない運動(以下EX)は,設備費用が安価で,実施場所の制限が少ないという利点がある.過去EXの効果について様々な報告がなされているが,介入効果を得る為には専門的な知識や技術の共有化が必要と考え,当施設での3ヶ月EX実施効果について検討した.
【方法】当施設にて平成18年4月~7月まで運動器介護予防事業に参加した在宅高齢者で,かつ認知症を有さない17名(男性7名,女性10名,平均年齢82.2±6.9歳,介護度は要支援1:7名,要支援2:10名,日常活動能力は老研式活動能力指標が8.5±2.3点)を対象とした.対象者は初期評価後EXに参加し,3ヶ月後に再評価を行なった.EX内容は共通項目として,重錘と弾性ゴムを使用した抗重力筋筋力増強練習5種目を各10回1セット20分間行なった.その後対象者に応じて,バランス練習や歩行練習,徒手療法等を行なった.当施設でのEX実施頻度は週1回もしくは2回,また実施可能者には,自宅でのEX指導も行なった.測定項目は,握力(GS),等尺性膝伸展筋力(KE),開眼片足立ち時間,2.5mタンデム歩行(TG),Timed Up & Goテスト(TUG),5m通常歩行時間(NGT),5m最大歩行時間(MGT)の7項目とした.統計処理は介入前後の測定値比較にWilcoxon符号付順位検定を使用し,有意水準は5%未満とした.なお本研究はヘルシンキ宣言に沿ったものである.
【結果】開眼片足立ち時間は,3.6±5.8秒から4.5±7.5秒へと有意な改善が認められた.他の6項目は以下のような結果となり,有意差が認められなかった.GS:19.9±6.5kgから19.8±6.9kg ,KE:156.4±70.0Nから131.1±60.9N,TG:6.1±4.3歩から6.0±3.9歩,TUG:15.7±7.8秒から14.7±8.6秒,NGT:9.3±3.9秒から8.9±3.4秒,MGT:7.1±3.8秒から6.8±3.9秒.
【考察】有意に改善した開眼片足立ち時間は,EX中に立位での片足立ち動作が多く,運動学習が影響しているものと考えられた.これはWhippleらが報告している効果的なバランス練習で,自重がかかる立位運動・水平方向の素早い運動・垂直方向の運動で大腿と股関節周辺筋が働くといった要素を多く含んでいる為と考えられる.またKEにおいては初期評価時にKE値が小さい場合,介入後に改善傾向が認められ,浅川らの報告と同様な結果となった.しかし初期評価時にKE値が大きい場合,介入後に低下傾向が認められており,今後EXでの運動速度や回数,重錘負荷量等を見直し,再度効果検証を行なう必要性があると考えられる.