抄録
【目的】高齢者維持期の理学療法では、日常生活動作(activities of daily living;以下ADL)の維持・改善を目標に、関節可動域訓練、筋力増強訓練、ADL訓練などのアプローチが行われている。しかし、環境からの刺激や運動量が減少すると、運動機能・精神機能が低下する。さらに運動動機の低下が起こり、日常生活動作能力が低下する。以上のことより、介助量が増加すると予測される。本研究では歩行可能レベルの入院患者を対象に、運動機能・精神機能測定を行い、維持期患者の理学療法効果の有無を明らかにしていきたいと考える。また、維持期理学療法の必要性について考えていきたい。
【方法】対象は、当院に入院中である研究の目的、方法を説明し同意を得ることが出来た、歩行可能レベルである患者19名を対象とした。測定は、2007年3~8月の6ヶ月間実施した。測定間隔は、運動機能測定は1ヶ月に1回行い、指標としては、握力、脚上げ検査、椅子座位体前屈、落下棒テスト、平行棒内歩行速度、10m歩行速度、1分間足踏みテスト、開眼片脚立位、機能的自立度評価法(以下FIM)を用いた。精神機能測定は2ヶ月間に1回行い、指標としては、長谷川式簡易痴呆スケール(以下HDS‐R)、意欲の指標、自己効力感尺度(浦上1992)を用いた。最終測定時の8月までに、全身状態悪化・転倒・退院等により追跡調査不能となった者を除く、14名(男性2名、女性12名、年齢79.6±9.3歳)を集計対象とした。統計処理は、T検定と変化率を用いて行い、T検定については危険率5%未満を有意とした。本研究は、藍野大学研究倫理委員会にて承認を得た。
【結果】T検定の結果、4月と8月の10m歩行の比較において、有意な改善が見られた(P<0.05)。さらに、8月の10m歩行と8月の自己効力感にはやや相関が見られた(相関係数0.7)。その他の運動機能、精神機能については、有意差は認められなかった。各月の変化率をみた結果、4~7月の各月の間において、低下傾向は見られなかった。
【考察】T検定の結果、4月と8月の10m歩行の比較において、有意な改善が見られた。さらに8月の10m歩行と8月の自己効力感にはやや相関が見られた(相関係数0.7)。その他の運動機能、精神機能については、有意差は認められなかったものの、各月の変化率において、大きな変動が見られなかった。石井ら(2005)によると、骨・関節・筋は、加齢に伴いさまざまな老化現象を引き起こし変性や日常生活動作の制限や廃用の原因となると報告している。さらに前田ら(2003)によると、単調な入院生活では環境からの刺激が少ないため、認知症が進行しやすく運動動機の低下、運動機能の低下、日常生活動作能力の低下が起こり廃用性症侯群を助長すると報告されている。しかし、理学療法を継続して行ったことにより、10m歩行においては改善がみられた。また、その他についても大きな変動が見られず、運動機能・精神機能は維持できたと考えられる。