抄録
【目的】
本研究の目的は、閉塞性動脈硬化症(以下ASOとする)と診断された患者に40°C、10分の前腕浴を行い、表在温、皮膚血流量、循環動態に及ぼす効果を検討し、臨床における治療方法としての有用性を明らかにすることである。
【対象】
ASOと診断された患者11名(内訳 男性4名、女性7名)
年齢74.5±10.92歳(Mean±SD)〔57-94〕
Fontaineの分類 1度3名 2度6名 3度1名 4度1名
【方法】
前腕浴の方法は、椅子坐位で十分な安静後に40°Cの単純泉に両側前腕部の部分浴(前腕浴)を10分行った。測定項目は皮膚血流量、表在温、舌下温、心拍数、血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)、主観的作業強度にて施行した。測定部位は皮膚血流量において患肢の膝蓋骨直上15.0cmのポイントにて施行した。また表在温において患肢の母趾、足背、下腿、上腕にてそれぞれ測定した。測定項目はすべて、安静時及び前腕浴中5分毎に測定した。室内の気温は25.1±0.7°C、湿度は50~60%に保たれた。統計処理は、安静時と前腕浴10分経過時の2群間で、ノンパラメトリック検定(対応のあるwilcoxon検定)を行った。有意水準についてはP<0.05を有意と考えた。
【結果】
安静時を基準として10分後の数値を比較した結果、皮膚血流量(安静時1.4±0.6、10分後2.0±0.8)は1.42倍に増加し、危険率5%で有意差を認めた。(P<0.05)拡張期血圧に関しては安静時86.2±7.3mmHg、10分後76.2±5.8mmHgと約10mmHg低下し、危険率5%で有意差を認めた。(P<0.05)舌下温は、安静時35.77±0.43°C 10分後36.19±0.43°Cと約0.5°Cの上昇を認め、危険率5%で有意差を認めた。(P<0.05)表在温は、安静時と10分後を比較し有意差は認められなかった。なお、前腕浴前の表在温は部位により異なり、最も低かったのは足趾で28.0°C、最も高かったのは上腕で31.9°Cであった。心拍数、収縮期血圧の項目に関しても有意差を認められなかった。
【考察】
ASOの患者に前腕浴を行った結果、皮膚血流量に関しては温熱作用の一つに、血管拡張を促進する働きがある。この効果により拡張期血圧を低下させ、さらに末梢血管抵抗が減少し皮膚血流量の増加を認めたのではないかと考えられる。また、収縮期血圧、心拍数に有意差を認めなかったことから、心筋酸素消費量を規定する因子の一つであるDouble Productに影響が少ない循環器系に対する負荷量が低い安全な治療法であることが示唆される。
【まとめ】
ASO患者には高齢者が多く、また患肢に褥創、壊死などが存在することが多いため直接温熱療法による治療が施行できない場合も多い。今回の研究でこのようなケースに対して前腕浴は循環系のリスクを抑え、患肢以外からアプローチし、患肢の血流量を改善することができる臨床的に有用な治療と考える。