抄録
【はじめに】PTの仕事ぶりに関する評価は個々の施設で行っているところもあるが、現段階では標準的な評価方法が存在していない現状にある。これには技術評価の難しさも関係しており、有資格者全員に共通した評価表の作成は困難であると考えられる。しかし、日々仕事をする上では、各種研修会や講習会への参加だけでなく、職場における何らかの評価によって自分の仕事を振り返ることがキャリア発達には重要である。そこで、新人PT育成の視点から、臨床経験3年未満のPTを対象に基本的な仕事ぶりに関する評価表を作成し、それを用いて評価に対する自己・上司の視点に違いについて検討したので報告する。
【方法】対象は臨床経験3年未満の新人PT 68名(男性37名、女性31名)とその上司延べ68名(男性49名、女性19名、平均経験年数12.7年)。仕事ぶりに関する評価表は日本理学療法士協会教育部による学生の臨床実習評価表を参考に新人PT用に一部修正を施して作成した。評価は専門職としての態度4項目、理学療法業務10項目、自己研鑽2項目の計16項目からなり、5段階評価とした。この評価表を研究協力に了解の得られた新人PTおよびその上司に各施設において別々に評価してもらい、郵送にて回収した。結果は自己評価と上司評価をそれぞれ因子分析し、視点の違いについて検討した。
【結果および考察】自己評価では第1因子「自己の業務遂行」(8項目)、第2因子「自己研鑽を含む業務の深化」(3項目)、第3因子「他者への配慮」(3項目)、第4因子「対象者への態度」(2項目)の4因子が抽出された。上司評価では第1因子「自己および他者を含む業務遂行」(8項目)、第2因子「自己研鑽を含む業務の深化」(4項目)、第3因子「専門職としての態度」(4項目)の3因子が抽出された。自己評価と上司評価の違いは、第1因子において自己評価では自己の業務遂行に関する項目のみであるのに対し、上司評価では自分の担当以外の対象者や他の療法士に対する配慮の項目が含まれており、新人PTよりも仕事を広く捉えていると考えられた。また、自己評価では専門職としての態度4項目の内、対象者への態度2項目が第4因子となっていたが、上司評価では専門職としての態度4項目は全てが第3因子となっていた。以上のことから、仕事ぶりに関する評価について新人PTは自己の業務遂行と他者へのサポートは別の枠組みで捉えているが、上司は同じ枠組みで捉えていた。また、新人PTは専門職としての態度の中でも、対象者に対する項目と他部門の職員やPT・リハビリテーション部門についての項目を分けて捉えていたが、上司は一つの枠組みで捉えていることがわかった。したがって、上司はこのような仕事に対する視点の違いがあることを考慮して、新人PTの育成に関わる必要性が示唆された。