抄録
【目的】関節固定は整形外科的保存療法としてしばしば用いられる.関節固定によって引き起こされる関節可動域制限が固定除去後に回復前の状況に戻る期間を把握しておくことは,治療者や患者にとって有用な情報である.そこで,本研究では比較的短い1週間の関節固定を想定し,関節固定後の関節可動域制限が固定前の可動域に回復する期間を検討した.また,1週間の関節固定によって生じた関節可動域制限に対するトレッドミル走行の影響も同時に検討を加えた.
【方法】実験動物には10週齢、メスWistar系ラット12匹を用いた.足関節の固定は,麻酔下に全てのラットの右足関節を最大底屈位にギプスを用いて大腿部より足部まで1週間固定した.
その後,無作為に6匹ずつ2グループに分け,トレッドミル走行を行う「トレッドミル群」、トレッドミル走行を行わず自由飼育する「自由群」とした.トレッドミル(Columbus社製ラット・マウス用トレッドミル)走行は20分/日,傾斜角度10°、速度は20m/minとした.足関節背屈可動域は,麻酔下に実験開始前,固定除去直後・1週間後・2週間後・3週間後に測定した.実験期間中、全てのラットは飼育ゲージ内を自由に移動でき、水と餌は自由に摂取可能とした.なお、本実験は県立広島大学保健福祉学部の倫理委員会の承認を得て行った.
【結果】実験開始前の関節可動域は,両群の間に有意差は見られなかった.自由群は固定除去後1週間で固定前の可動域に回復した.一方、トレッドミル群は固定除去後2週間で固定前の可動域に回復した.
【考察】2週間の関節固定後に関節可動域制限の自然回復を検討した報告によると,固定除去後6週間でも完全に自然回復しなかったと述べている.本研究では,1週間の関節固定で発生した関節可動域制限は,固定除去後1週間で自然回復することが分かった.このことから,1週間と2週間の関節固定後の関節可動域制限は,その回復期間が大きく異なることが明らかとなった.
固定除去後の関節可動域制限の回復について,負荷量を漸増的に増やすトレッドミル走行と自由飼育を比較した報告によると,トレッドミル走行群は自由飼育より回復は早いと報告されている.本研究では,トレッドミル群は自由群より回復に時間を要した.これは,本研究で実施したトレッドミル走行の方法が,何らかの障害を引き起こしたためと推測される.臨床でも不適切な可動域訓練はかえって可動域改善の阻害因子となることが示唆される.