理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-089
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理学療法基礎系
視覚情報の減少が跨ぎ動作に及ぼす影響
藤野 高史坂本 有加山下 祐助栁沼 寛阿南 雅也新小田 幸一
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抄録

【目的】高齢社会である現在,転倒は大きな問題である.高齢者の転倒要因の一つとして,視機能の低下が挙げられ,転倒の発生状況では障害物などを跨ぐ際につまずくことが多いとされている.高齢者ではさまざまな機能低下が生じており,視機能の影響のみを観察することは困難であると考えられる.そのため本研究では,高齢者に対するアプローチを行う前段階として,若年者を対象に視機能低下が跨ぎ動作に及ぼす影響を明らかにし,高齢者の転倒予防につながる情報を得ることを目的として行った.
【方法】本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て行った.被験者は,本研究を理解し,同意を得られた健常若年者14名(男性8名女性6名,平均年齢21.36±1.4歳,身長165.7±7.2cm)であった.人為的に視覚的情報を減らすため,視覚障害体験グラス(教育図書社製)を使用した.跨ぎ動作は視覚障害体験グラスをかけた条件(以下,条件G)とかけない条件(以下,条件N)で行った.反射マーカ(以下,マーカ)は,両側の肩峰,股関節,外側膝関節裂隙,外果,第5中足骨頭,拇趾先端に貼付した.拇趾先端のマーカは相馬らの研究をもとに,マーカから床までの鉛直距離と拇趾先端までの距離が等しくなるように貼付した.拇趾と障害物間の距離(以下,TC)は,マーカが障害物上を通過するときの,実測値よりマーカから拇趾足底部までの距離と障害物の高さ(身長の10%)を差し引いた値とした.マーカの空間座標は,3次元動作解析システムKinema Trancer(キッセイコムテック社製)を使用して求めた.関節角度変化は動作開始前の静止立位時が0°となるように補正した.動作開始肢位は,足幅を肩幅に広げた静止立位とし,口頭での合図とともに,身長の20%前方にある障害物を最初の一歩で跨ぎ始め,跨いだ後も歩行を続けるように被験者に指示した.
【結果】TCは,条件Gの方が20.7±5.5cmと条件Nの16.3±3.35cmよりも有意に大きかった(p<0.01).股関節最大屈曲角度は,条件Gの方が47.4±14.9°と,条件Nの43.0±14.2°よりも有意に大きかった(p<0.01).膝関節最大屈曲角度は,条件Gの方が93.9±13.1°と,条件Nの86.9±11.2°よりも有意に大きかった(p<0.01).足関節最大背屈角度には有意な差が認められなかった.
【考察とまとめ】条件Gの方が,条件Nよりも股関節,膝関節の最大屈曲角度が有意に大きかった.このことから,跨ぎ動作においては,股関節・膝関節の屈曲角度の増加によって主にTCの調整を行っていると考えられる.また,視覚的情報が減少した状態では,下肢を高く挙げることが分かった.このことは,動作の効率性よりもTCの確保を優先した結果であると考えられる.しかし,下肢を高く挙げるほど,動作の不安定性につながるため,視機能の低下した高齢者に対しては,バランス機能に対してよりアプローチしていくことや,杖の使用などを検討していく必要性が示唆された.

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© 2009 日本理学療法士協会
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