抄録
【はじめに】運動中の肺気量位の変化は、慢性閉塞性肺疾患の息切れの原因としてあげられている動的肺過膨張との関係から、十分な検討が必要な分野と考えられる.今回我々は、運動時の肺気量位変化に対する肺機能の影響を検討するために、健常人を対象に運動時の肺気量位変化をFlow-Volume Loopを用いて観察し、肺機能検査との関係を検討したので報告する.
【方法】対象は健常成人30例(男性15例、女性15例、平均年齢27.4±5.0歳、%VC110.8±15.7%、FEV1.0%90.7±5.9%).対象者には、測定前に研究内容について説明し、同意を得た.運動負荷は自転車エルゴメーターでのramp負荷を用い、自覚的最大強度まで行なった.肺気量、流量の測定は呼気ガス分析器(ミナト医科学社製 AE300-S)を用いた.得られたデータより、安静時と最大運動時のFlow-Volume Loop(FVL)を運動後に測定した最大吸気・呼気時のFVLの中に描くことで、終末吸気肺気量位(EILV)、終末呼気肺気量位(EELV)を求めた.EILV、EELVは肺活量(VC)に対する比で表し、肺機能検査結果との関係をみた.
【結果】安静時と最大運動時の肺気量位を比較すると、EILV(安静時58.7±8.4%、最大運動時79.7±7.0%)は有意(p<0.01)に上昇し、EELV(安静時42.7±8.0%、最大運動時29.8±7.5%)は有意(p<0.01)に下降した.安静時から最大運動時のEILV変化量と肺機能検査との関係を見ると、EILV変化量は一秒率(FEV1.0%)と負の相関(r=-0.56、p<0.01)、V50/V25と正の相関(r=0.60、p<0.01)を示した.さらに、最大吸気量(IC)(r=0.38、p<0.05)、吸気予備量(IRV)(r=0.43、p<0.05)と正の相関を示した.しかし、%VC、ピ-クフロ-(PEF)、呼気予備量(ERV)との関係はみられなかった.また、安静時から最大運動時のEELV変化量と肺機能検査との関係を見ると、EELV変化量は%VCと正の相関(r=0.58、p<0.01)、FEV1.0%と負の相関(r=-0.51、p<0.01)、V50/V25と正の相関(r=0.46、p<0.01)を示した.さらにICと正の相関(r=0.36、p<0.05)を示した.その他の肺機能検査結果との関係はみられなかった.
【考察】これらの結果から、健常人における運動時の肺気量位変化は気道の閉塞状態を反映するFEV1.0%、V50/V25が悪い値を示すほど、運動中のEILV、EELVは上昇し、呼気流量に余力があり流量制限を受けにくい高い肺気量位で換気が行われやすくなる可能性が示唆された.さらに、IC、IRVなど吸気予備能が高い場合にも、運動中に高い肺気量位で換気が行われる可能性が示唆された.