理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-115
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理学療法基礎系
排便時腹圧上昇に必要な筋の考察
―腹横筋の収縮が腹圧にもたらす影響―
槌野 正裕荒川 広宣山下 佳代中島 みどり石井 郁江坊田 友子甲斐 由美高野 正太高野 正博
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キーワード: 排便, 腹圧, 腹筋
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抄録

【はじめに】我々は,排便困難例の排泄姿勢に関する研究を行い,昨年当学会において発表した.その後も排便困難例に対しては, 継続して運動学的視点を用いて排泄訓練に取り組んだ.排出困難例は大きく2つに分けられ,1)腹圧を上手く上昇出来ない例と(以下腹圧不十分例),2)肛門の奇異収縮により,排出しようと息むと外肛門括約筋が収縮する例が存在する.今回,腹圧不十分例に関して特徴的な共通点を見出したので以下に報告する.【対象と方法】当院では,排便困難例に対しては,バルーンを肛門から挿入し,空気を注入して膨らませる.膨らんだバルーンを息んで排出する訓練を行なっている.当院におけるバルーンの排出参考値は30mlである.排出できない症例に対しては継続して排出訓練に取り組んでいる.それでも排出困難が改善しない例に対しては,理学療法士も姿勢評価や腹筋群の収縮状態を評価して排出訓練を実施している.本研究では排出訓練を実施している腹圧不十分例を対象とした.方法は,最初に息み動作時の腹筋群を観察し,更に超音波エコー(以下エコー)を用いて,排出時の腹筋群の筋収縮動態を評価した.エコーは外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋の3層が確認出来るようにプローブを固定し,安静時と怒責時における筋の収縮を評価した.なお,当院における患者保護基本方針に則り患者の同意を得て実施した.【結果】排出訓練時の腹部の観察において,腹圧不十分例では息み動作(怒責)の際に腹部が膨らみ,過剰な努力による無呼吸を維持出来ず途中で息継ぎが必要であった.また腹部のエコーによる筋収縮では,内腹斜筋のみが優位に収縮していた.腹圧を上昇できる例では,怒責時に腹部の膨らみは認めず,エコーによる画像では内腹斜筋のみではなく,腹横筋も同時に収縮していた.【指導】腹圧不十分例に対して腹部の引き込み運動を行なわせてみると,呼吸を止め肋骨の挙上も伴っていた.そこで,腹部の引き込み運動により腹横筋の収縮方法を指導した.指導後は腹部の膨らみも軽減し,エコーでは内腹斜筋と同時に腹横筋の収縮も確認出来るようになり,過剰な努力も軽減した.【考察】腹圧上昇出来ない排便困難例では,腹横筋の収縮が不十分なことで腰部骨盤帯の安定性が得られず,内腹斜筋による過剰な努力を要していた.横隔膜,腹横筋,多裂筋,骨盤底筋群のinner unitとして捉えたとき,通常は中心に向って収縮することが必要であるが,排便時は下方に向うような協調的な収縮が必要であり,その際に腹横筋の収縮が腹部に安定性をもたらすことが腹圧の上昇に重要な役割を果たすことが示唆された.

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© 2009 日本理学療法士協会
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