抄録
【目的】股関節屈曲・伸展方向の肢位変化がヒラメ筋(SOL)H反射に及ぼす影響について調べた研究は数多くあるが、股関節回旋方向の運動方向においてSOL-H反射を用いた研究は見当たらない.一方、肩関節の水平方向の肢位変化によって手指筋や前腕筋を支配する皮質運動野の興奮性が変化することが、経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いた研究によって報告されている.このことから、股関節の肢位変化による筋感覚が、脊髄レベルだけでなく、上行性経路を介して皮質運動野内のSOL支配領域に影響を与えている可能性も考えられる.本研究では、股関節の回旋方向の肢位変化に着目し、SOLの脊髄α運動ニューロン(MN)および皮質運動野内のSOL支配領域の興奮性に及ぼす影響について調べるためH反射及びTMSを用いた実験を行った.
【方法】健常成人14名(23.0±3.5歳)を対象とした.被験者には、事前に主旨、目的、方法についての説明を十分に行い、書面による同意を得てから実験を実施した.被験者は安静臥位をとり、右下肢を膝関節屈曲60度、足関節底屈10度に短下肢装具を用いて固定した.股関節内外旋中間位(中間位)、外転・外旋した肢位(外旋,外旋+)、内転・内旋した肢位(内旋,内旋+)の各肢位でSOL-H反射を誘発し、最大M波に対する最大H反射の比(Hmax/Mmax)を求めた(実験1).また皮質運動野内のSOL支配領域の興奮性の指標として、TMS条件刺激によりSOL-H反射に生じる促通の程度を観察した(実験2).TMS条件刺激とH反射を誘発する試験刺激の刺激間隔は、5、10、15、20msとした.シナプス前抑制の関与を調べる目的で、股関節各肢位において、総腓骨神経を20ms先行させて条件刺激した際のSOL-H反射の抑制量を比較した(実験3).統計は、一元配置分散分析(実験3は二元配置分散分析)および多重比較検定(Bonferroni test)を実施した.危険率5%未満を有意差ありとした.
【結果】中間位に比較して、外旋、外旋+ともにHmax/Mmaxは有意に低下した.一方内旋方向では、内旋+でのみ有意に低下した.実験2で、SOL-H反射は、TMS条件刺激により股関節の各肢位で促通されたが、肢位間での差は認められなかった.実験3では、外旋、外旋+において、中間位に比較して条件刺激による抑制量が有意に増大した.
【考察】今回観察されたH反射の抑制は、股関節周囲筋群(特に股関節内転筋群)からの筋感覚が、SOL-H反射経路内のシナプス前抑制の効果を強めた結果であることが示唆された.一方同じ股関節からの筋感覚は、皮質運動野内のSOL支配領域には大きな影響は及ぼさないことが考えられた.
【まとめ】股関節を回旋することで、SOLを支配するMNの興奮性は抑制された.特に外旋方向で抑制効果が顕著であった.