抄録
【はじめに】
腹圧性尿失禁患者に用いられる骨盤底筋群トレーニングは、パンフレットの配布により個々の患者トレーニングに任せられ、その効果も患者の主観に委ねられている.またトレーニング内容は容易ではなく、正確に施行しなければ、さらに失禁が悪化することが知られている.このたび女性専門泌尿器科外来開設にあたり、医師と共に超音波による骨盤底筋群の収縮を可視化し、評価と治療を展開したので考察を加え報告する.
【対象】
2007年6月から2008年11月までの期間に、女性専門泌尿器外来より理学療法処方があり本発表に同意を得られた女性患者11例を対象とした.内訳は臓器脱3例と尿失禁8例、平均年齢61.5±11.4歳であった.
【方法】
初回問診と理学療法プログラムの説明後、200mlの生理食塩水を膀胱に注入.医師と共に理学療法士が超音波を用い、恥骨上より経膀胱式に骨盤底挙上の収縮距離・持続時間を測定.当院独自のGrade(1、収縮できない 2、2~3秒の収縮可能 3、5秒以上収縮可能であるが下肢挙上不可 4、下肢を挙上可能 5、リフティング動作可能)を使用し骨盤底筋群の機能を評価.失禁症状は重症度判定に用いられるパッドテストで尿漏れの量を計測.1ヵ月後に再度生食注入にて超音波測定を施行.
理学療法は、姿勢・動作評価ならびに触察に基づき過緊張筋に対する徒手療法と超音波評価を用いた骨盤底筋群収縮の促通.症例ごとに異なる収縮様式に対応した自主トレーニングを週1~2回指導した.
【結果】
8例中、失禁症状改善4例、失禁症状変化なし4例、失禁症状悪化0例であった.
失禁症状改善4例(平均年齢60.2±13.9歳)の骨盤底挙上距離は初診時平均4.3±2.8mm、終了時平均6.8+3.6mmであった.Gradeの改善は 2→4、1→5、1→4、3→5であった.パッドテストは初診時平均2.6±2gで終了時平均1.0±1g.
失禁症状変化なし4例(平均年齢59.6±10.2歳)の骨盤底挙上距離は初診時平均4.6±3.1mmで終了時平均10.4±13.2mmであった.Grade は初診時平均2→2、2→2、2→3、1→3であった.パッドテストは初診時平均48.5±31.9g、終了時は初診時と症状に変化が無かった.
双方を比較すると平均年齢と骨盤底挙上距離の差に相関はなかったが初診時尿失禁の量(重症度)と終了時Gradeに差を認めた.
【考察】
尿失禁の改善には骨盤底挙上距離に加え、運動・動作時に持続した骨盤底収縮すなわち当院の用いるGradeにおいて3以上が必要であると考えられる.また、平均年齢に差は認めなかったが、パッドテストの結果より尿失禁量が5g以下の軽症例は全例改善が得られ、理学療法の適応であることが示唆された.今後、これらの症例に対して積極的に介入し、尿失禁に対する根拠に基づいた理学療法の構築を目指したい.