抄録
【目的】ボクシングでは,非利き手による素振りパンチとトレーニングバッグへのパンチによるパンチの練習が行われるが,各動作における特徴は明確にされていない.そこで,これらのパンチ動作において,さらに強さを重視した方法と速さを重視した方法による相違を,筋活動の面から検討することを目的として研究を行った.
【方法】対象は国体,インターハイ出場レベルの現役高校ボクシング部員男子8名(年齢17.3±0.5歳,身長169±4.7 cm,体重57.4±8.7 kg,経験年数1.7±0.3年)とした.対象者には本研究の趣旨、個人情報の保護を説明し同意を得て行った.対象者には裸足,上半身裸となってもらい,構えは各個人の構えとした.パンチ動作は,素手による非利き手パンチの素振り(素振り打撃)と,指定ボクシンググラブ(グラブ)を装着した非利き手でバッグへ向けて打撃(バッグ打撃)する2動作とした.さらにそれぞれのパンチ動作でスピード重視,強さ重視の条件を加えて計4条件の動作を行わせ,パンチ動作開始の合図は40回/分に設定したメトロノームとした.各条件で5回ずつ計20回の動作を行わせた.バッグ打撃では,グラブがバッグに接触するタイミングの計測として筋電計と同期したスイッチを使用した.パンチ動作の測定順序は,疲労,学習効果による影響を相殺するために循環法を用いて配置した.各動作で測定した筋活動は,非利き手の大胸筋,上腕二頭筋,上腕三頭筋長頭・外側頭,三角筋前・中・後部線維,僧帽筋上・中・下部線維,広背筋の筋活動とした.また各筋の活動を比較するために最大随意収縮時の割合に換算し,単位時間当たりの積分値を求めた.統計解析には4条件についてSteel-Dwass法を用いて検定した.
【結果】広背筋では強さ重視・バッグ打撃よりもスピード重視・素振り打撃(p<0.01)が有意に大きい値を示した.また,バッグ打撃において広背筋はグラブがバッグに接触した直後に活動開始していた.上腕三頭筋長頭ではスピード重視・バッグ打撃よりも強さ重視・バッグ打撃(p<0.05)が,大胸筋,三頭筋外側頭,三角筋前・中部線維の各筋で,スピード重視・素振り打撃よりも強さ重視・バッグ打撃(大胸筋はp<0.01,他の筋はp<0.05)が有意に大きい値を示した.バッグ打撃条件から大胸筋,上腕三頭筋長頭,三角筋前・中部線維の各筋はパンチ推進中からバッグに接触した直後まで筋活動がみられた.上腕二頭筋,三角筋後部,僧帽筋では有意差はなかった.
【考察】今回,素振り打撃とバッグ打撃の上肢筋活動の違いを明らかにできた.さらにパンチの速さや強さによって筋活動も異なり,筋活動の面からは練習効果に違いがあると推測する.このような点を選手に意識させ,今後のパンチ動作指導に活用することで,より根拠に基づいた練習方法を提案できると考える.