理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-077
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理学療法基礎系
棒を振る動作での運動性触知覚の知覚特性と表在感覚の関係性
板東 杏太平沢 小百合高木 賢一仁田 裕也鶯 春夫
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抄録

【目的】アフォーダンス理論に基づくと運動を前提として感覚を研究対象にする際には,身体の感覚と環境との相互関係について研究する視点が必要であると思われる.JJ Gibson は「運動性触知覚」という筋肉内部の機械受容器の伸張,圧迫,ねじりなどに対する反応を神経的基盤として,物体に固有な情報を取り出す知覚を提唱している(1966).本研究では,先行研究(Solomon&Turvey,1988)にならって棒を振ってその長さを知覚するという探索課題を用い,その知覚特性が表在感覚を低下させることでどのような変化を起こすかを比較・検討した.

【対象・方法】対象は本研究に同意を得た右利きの健常男性30名(平均年齢21.3±4.6歳)とした.材料は直径1.0cm の30cm棒 ,40cm棒,70cm棒,90cm棒とし,素手の場合(以下:NS時)と医療用ゴム手袋を三枚重ね履きした場合(以下:S時)で運動性触知覚の結果を比較・検討した.具体的には,被験者を椅子に座らせ,右手に渡す棒の長さを,目で確認せずに自由に振って報告する課題であることを教示し,保持する棒が見えないように仕切りを設置した.また,NS時とS時の各ブロックの探索課題の前にノギスで二点識別覚を測定した.4種類の棒の報告を1セッションとし,順はランダム化して2セッション繰り返し測定した(計8回施行).制限時間は設けず,結果のフィードバックは与えなかった.知覚した棒の長さは,目の前の机に設置した目印を左手で移動させることで長さを表現させた.統計学的処理はpaired t-testを行いNS時とS時の1)二点識別覚の結果,2)各棒の長さの知覚結果(2回の平均値)について解析を行い,危険率5%未満とした.

【結果】二点識別覚はNS時2.0±0.5mm,S時4.6±1.7mmで有意差を認めた(p<0.05).各棒の長さの知覚結果については30cm棒:NS時29.0±6.6cm,S時27.5±7.4cm.40cm棒:NS時34.0±11.5cm,S時33.1±11.4cm.70cm棒:NS時79.1±13.6cm,S時78.2±11.8cm.90cm棒:NS時83.7±15.1cm,S時84.9±17.0cmでいずれも有意差を認めなかった.

【考察】今回,棒を振る動作での運動性触知覚において表在感覚を有意に低下させても,棒の長さの知覚にはほとんど影響しないことが認められた.アフォーダンス理論では知覚情報は環境の側にあるとされている.またその情報とは知覚者と環境との間で知覚された不変な関係性であり,その不変なものを三嶋は「不変項」と呼んでいる(1996).そして,棒を振ることによって生じる慣性モーメントの中の固有値ベクトルが「不変項」であるという慣性テンソルモデルにおいては,その「不変項」を環境から得られれば,棒の長さは知覚出来るということがあげられる.本研究においても1つ感覚の低下が起こっても他の感覚を用いて不変項を抽出できたものと考える.よって,運動を前提とした場合、1つの感覚のみの評価にとどまらず能動的な方法での知覚評価をすることが重要であることが示唆された.

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© 2009 日本理学療法士協会
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