抄録
【目的】腰背部の不良姿勢や動作時の生体反応を理解することは腰痛患者への日常生活指導,治療選択に重要である.そこで本研究では運動肢位を固定した同等な仕事量における,腰背部筋の異なる筋収縮様式と運動強度での筋活動と血液動態を比較検討したので報告する.
【方法】対象は専門学校学生の男性19名(平均年齢21.0±0.9歳)であった.対象者には研究の内容・安全性・任意参加性等を十分説明した上で同意を得た.また,本研究は聖隷クリストファー大学倫理委員会の承認を受けて実施した.測定肢位は体幹30度前屈位とした.被験者の最大随意収縮力(MVC)を測定したうえで,Tension time indexを同等に設定した4条件;1)30%MVCで120秒持続的収縮,2)60%MVCで60秒持続的収縮,3)30%MVCで200秒間欠的収縮,4)60%MVCで100秒間欠的収縮,を一人の被験者にランダムな順序で施行した.疲労の影響を排除するために各施行間は3日以上あけた.近赤外線分光法にて,組織酸素飽和度(StO2)と総ヘモグロビン量(total-Hb)を測定し,表面筋電図を記録した.測定部位は右側腰部脊柱起立筋筋腹とした.収縮様式,運動強度の違いによる比較には対応のあるt検定,経時的変化による比較には一元配置分散分析,筋電図波形からは中間パワー周波数(MdPF)を算出して検討した.危険率5%未満を有意水準とした.
【結果】収縮様式の違いで比較した60%MVC時StO2は運動終了時に有意な差が認められた(p<0.05).持続的収縮でのStO2は60%MVCの方が時間経過とともに低下し,運動時間の後半に30%MVCと有意な差が認められた(p<0.05).total-Hb量は全ての運動強度,収縮様式で群間にも経時的にも有意差がなかった.MdPFは全ての運動強度,収縮様式で経時的な低下が認められなかった.
【考察】今回の研究で60%MVCの両収縮様式間でtotal-Hb量に有意差が認められないにも関わらず,StO2において運動終了時に有意な差が認められたのは,持続収縮の方が間欠収縮より筋での酸素消費が多かったことが示唆される.一方,全ての運動強度,収縮様式でMdPFには経時的な低下が認められなかったことから,60%MVCの両収縮様式とも測定部での局所疲労はなかったと考えられる.また,持続収縮の両運動強度間でStO2において経時的に有意な差が認められたのは運動開始後中盤以降であるが,全ての運動強度,収縮様式でMdPFに経時的な低下が認められないことから,持続収縮の両運動強度とも測定部での局所疲労はなかったと考えられる.すなわち,今回設定した4条件の中では,局所疲労を起こさず効率よく筋酸素消費できるのは60%MVCでの持続収縮であったと考えられ,腰部に局所疲労を起こさず効率よくトレーニング出来る可能性の指針が得られた.