理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-134
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理学療法基礎系
体位の違いにおける口唇閉鎖力の検討-1
乾 亮介森 清子竹嶋 宏剛西埜植 祐介中島 敏貴
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キーワード: 口唇閉鎖力, 体位, 誤嚥予防
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抄録

【目的】
口唇閉鎖力の強化は、安静時や睡眠時においても舌を挙上位に保ち、舌骨や喉頭を引き上げ、気道を確保し鼻呼吸をしやすくする.このことより、口唇閉鎖は口腔内乾燥や、誤嚥性肺炎等の感染予防に有効であると秋廣は報告している.特に誤嚥性肺炎については食事時の誤嚥よりも、睡眠時において感染した唾液等を気管内に吸引してしまう不顕性誤嚥によっておこると言われている.先行研究において嚥下反射に有効な体位についての報告は数多くなされているが、口唇閉鎖をしやすい体位についての報告はなされていない.そこで今回我々は、摂食嚥下訓練時だけでなく、誤嚥性肺炎の患者、あるいはその危険性がある方に対してより安全で口唇閉鎖しやすい体位を検討した.
【方法】
対象は研究の趣旨に書面にて同意を得た健常成人22名(平均年齢30.8±7.5歳、男性11名、女性11名).「端座位」、「背臥位」、「ベッドアップ(以下BU)30°、60°」の各体位について、コスモ計器社製のLIP DE CUM LDC-110Rを用い、口唇閉鎖力を測定した.測定中の頭頚部は体幹に対して正中位とし、各体位において、最大努力で口唇閉鎖を10秒間行い、1分間の休憩を挟み計3回繰り返し、3回の平均値を各被験者の口唇閉鎖力とした.尚、測定は筋疲労を考慮し1日に1体位までとした.統計処理には各体位間の比較についてWilcoxon符号順位検定を用いた.
【結果】
各体位の口唇閉鎖力の平均値は端座位9.8±2.3N(ニュートン)、背臥位10.5±3.0N、BU30°10.7±2.5N、BU60°10.7±2.7Nであり、端座位は背臥位よりも有意に低い値を示した(p<0.05).また、端座位とBU30°、BU60°との比較でもより有意に低い値を示した(p<0.01).しかし、背臥位とBU30°、60°との各比較において統計学的有意差は認められなかった.
【考察】
口唇閉鎖は、口輪筋だけでなく、舌骨上筋群であるオトガイ舌骨筋や顎舌骨筋、茎突舌骨筋により、舌挙上運動や下顎運動を伴う.これらの筋は舌骨や下顎、後頭骨に起始、停止を持つため、円滑に活動するためには頭位の安定化が必要である.今回端座位において最も低い値を示した理由は、他の体位が頭部を枕に定位できたのに対し、端座位では頭位を自ら固定する必要があり、これら舌骨上筋群が頭位固定に代償的に活動し、口唇閉鎖の妨げになった為と考える.また、背臥位とBU30°、60°の各体位間について有意差がなかった要因として、被験者間で最高値を示す体位にばらつきがあり、口唇閉鎖には、重力や頭頚部の固定だけでなく、呼吸筋等も含めた体幹機能など、その他の影響も受ける可能性が示唆された.今後はさらに、頚部筋力や体幹筋力及び頚部・体幹アライメントなど条件を変えて比較検討を行い、これらの関係性を明らかにしていく必要があると考える.

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© 2009 日本理学療法士協会
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