抄録
【目的】
近年、健康増進や疾病予防からウォーキングを中心として歩行が関心を高めている.歩行は速度や歩幅を変数とした場合、そのエネルギー消費量は速度や歩幅に比例して増加することが報告されている.しかし、歩行率に着目してエネルギー消費や心負荷などの生理反応を検討した報告はない.よって本研究の目的は、快適歩行速度での歩行率を変数とした際の生理反応について検討することとした.
【方法】
対象者は下肢の障害や呼吸・循環器系障害を有さず、研究に同意の得られた健常若年男性50名(年齢21.0±2.5歳)とした.対象者は10m歩行試験を行い快適歩行速度と歩行率を算出すると同時に、無作為に快適歩行での歩行率群(以下、コントロール群)・歩行率15%減群・30%減群・15%増群・30%増群の5群、各10名に分けた.負荷設定はトレッドミルを用い、安静3分後快適歩行速度・設定歩行率にて10分間の歩行を行った.測定項目は酸素摂取量、分時換気量、心拍数、主観的運動強度とした.データ処理は生理反応では運動終了直前の1分間を平均化したものを用い、主観的運動強度はBorg Scaleを用いて運動終了時に聴取した.統計処理は一元配置分散分析を用い、post-hoc testとしてTukeyの方法を用いた.有意水準は5%未満とした.また、5群間での筋活動を検討するため対象者の中から3名を抽出し、大殿筋・中殿筋・大腿二頭筋・内側広筋・腓腹筋・前脛骨筋の筋電図を用いた.
【結果】
各群間の対象者の身体特性や安静時生理反応、快適歩行速度、歩行率に有意な差はみられなかった.歩行時の比較では、30%減群が酸素摂取量と分時換気量では他のすべての群に対して、心拍数では15%減群以外の群に対して有意に増加した.15%減群は有意な差は見られなかったが、酸素摂取量・分時換気量・心拍数がコントロール群に対し増加傾向を示した.15%増群と30%増群の生理反応はコントロール群とほぼ同値を示した.主観的運動強度は各群間にて有意な差は認められなかった.また、筋活動の検討では一定のパターンは示さなかったが、筋積分値の合計にてコントロール群と比較し、歩行率が減少すると筋積分値が増加する傾向が得られた.
【考察】
快適歩行の速度下にて歩行率を減少させる歩行では、酸素摂取量が増大し主観的運動強度が変化しなかったため、自覚的負担を強いることなくエネルギー消費を上げることのできる手段である可能性が示唆された.しかし、心拍数の増加が伴うため、循環器系疾患を合併している際には注意が必要であることが示された.また、エネルギー消費増大は歩行率減少にて重心偏移が大きくなり、筋活動量が増大したことによると考えられた.