理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-148
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理学療法基礎系
上部胸郭への圧迫が横隔膜機能に及ぼす影響
金子 秀雄吉住 浩平永井 良治大塚 もも子川島 由希江里口 恵介沖 侑大郎徳永 浩一加藤 紗織
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抄録
【目的】呼吸調整を目的に横隔膜呼吸を試みるが、呼吸障害患者では上手くできないことも少なくない.このようなとき上部胸郭に持続的な徒手的圧迫を加えることで横隔膜呼吸へと誘導できることを経験する.しかし、その効果についてはほとんど知られていない.そこで、本研究では健常者を対象に上部胸郭への圧迫が横隔膜機能にどのように作用するか検証することを目的とした.

【方法】健常男性24名(21±1歳)を対象とした.対象者には研究内容を書面および口頭にて説明し同意を得た.また、本研究は国際医療福祉大学の倫理委員会の承認を得て実施した.上部胸郭圧迫およびその前後の横隔膜機能を評価するために6.0MHzの超音波画像計測装置とBモード、リニア式プローブを用いた.プローブは右中腋窩線から前腋窩線上の間の第8または第9肋間にプローブを置き、吸気終末時と呼気終末時の静止画像を3呼吸分抽出した.超音波画像はパソコン画面上にて横隔膜の筋厚(Tdi)を測定し、呼気終末時と吸気終末時のTdiの差を呼気終末時のTdiに対する百分率で表した(delta Tdi).また、このときの一回換気量と呼吸数を測定するためにスパイロメータを使用した.上部胸郭への圧迫には血圧計のマンシェットを使用し、腋窩から乳頭レベルに置いて、胸郭に巻きつけた.圧迫は40mmHg とした.対象者はフェイスマスクを装着して背臥位となり、上部胸郭への圧迫を3~5分間を加えた.すべての測定は呼吸が安定した後に実施した.上部胸郭圧迫とその前後の3条件を比較するために、分散分析を用いて多重比較を行った.

【結果】上部胸郭圧迫とその前後の比較では、delta Tdiは有意に増大したが、一回換気量と呼吸数に有意差はなかった.しかし、このうち8名はdelta Tdiが減少していたことから、その増減により2群(増大群、減少群)に分類し比較した.その結果、2群の一回換気量と呼吸数には有意差はなかったが、上部胸郭圧迫前のdelta Tdiは増大群より減少群の方が高値であった.上部胸郭圧迫後、増大群のdelta Tdiは有意に減少し圧迫前に戻ったが、減少群のほとんどは圧迫時と同じ状態を維持していた.

【考察】上位肋間筋への伸張刺激を行った先行研究では、伸張刺激により横隔膜の活動が高まったことを報告している.そのため、本研究では上部胸郭圧迫が横隔膜機能を高めるという仮説のもとに実施した.その結果、一回換気量は同等であるにもかかわらず横隔膜機能の指標であるdelta Tdiは有意に増大し、上部胸郭圧迫は横隔膜機能を高めることが示された.この効果は、特に横隔膜動員が相対的に少ない対象者に認めたことから、呼吸障害により横隔膜機能が減少した患者に対しても同様な効果が期待できる可能性が示唆された.
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© 2009 日本理学療法士協会
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