抄録
【目的】ニューロリハビリテーションとしてCI療法が注目され,2004年に公表された脳卒中ガイドラインには,中等度以下の麻痺患者に勧められる治療として採用されている.CI療法に関しては多くの研究成果が報告されているが,脳活動に与える影響を検討した報告や,麻痺側の強制使用と非麻痺側の拘束が脳活動に及ぼす影響についての報告は少ない.そこで本研究では,健常成人を対象に非利き手での巧緻動作時の脳活動と,動作イメージが脳活動に与える影響を検討することを目的とした.
【対象と方法】対象は事前に十分な説明を行い,文書にて同意を得た健常成人10名(25.0±4.9歳)とした.全被験者は右利きであり,被験肢は左側とした.動作課題は,先行研究に準じ座位で両上肢を机に乗せ,左手でゴルフボール2個を時計回りに回転させる動作とし,Task1は閉眼動作イメージ,Task2は開眼動作イメージ,Task3は開眼での最大努力動作とした.プロトコルは,安静20秒-動作20秒-安静20秒の3施行とし,脳活動の測定には近赤外光イメージング装置(OMM-3000,島津製作所製)を用いた.ホルダは感覚運動領野を覆うよう国際10-20法に基づき装着し,45チャネル(以下,Ch)で測定した.3施行を加算平均し,左右の運動前野(Ch8,12),一次運動野(Ch21,25),体性感覚野(Ch34,38)に相当する計6Chを抽出し,検討した.酸素化ヘモグロビン値をパラメータとして動作前安静時と動作時の積分値を算出した.統計処理にはStatView5.0を使用し,2群の比較にはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた.また,動作時から動作前安静時の積分値を差し引いた値を賦活量と定義し,3群間比較にはKruskal-Wallis検定とScheffe検定を用い,有意水準は5%未満とした.
【結果】各Chの動作前安静時と動作時の比較では,Task1はCh8,12,21,Task2はCh8,21,25,Task3は全Chで動作時に有意な増加を認めた(p<0.01).両側で賦活を認めた各領野の左右比較では,Task3の体性感覚野のみCh34に比べCh38で有意な増加を示した(p<0.05).また,各ChでのTask間の賦活量比較では,Ch25はTask3がTask1に比べ,Ch34,38はTask3がTask1,2に比べ有意な増加を認めた(p<0.05).
【考察】健常成人における非利き手の動作課題では,両側の感覚運動領野が賦活し,先行研究と一致した.動作イメージと動作では,異なる賦活パターンを認めた.また,被験肢側と同側の運動前野,一次運動野は,動作時にもイメージング機能として,体性感覚野は,動作指令に関与していることが示唆された.今後,脳卒中片麻痺患者を対象にCI療法におけるNIRSイメージング研究に取り組むつもりである.