理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-152
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理学療法基礎系
視覚による手先位置の誤差信号がなくともプリズム順応は成立する
山本 昌樹中川 法一
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抄録
【目的】プリズム順応とはvisuomotor transformationによる感覚運動学習であり、順応には視覚座標系と関節座標系の再較正が求められる.小脳皮質損傷者はプリズム順応しないが、頭頂間溝領域の損傷者には順応が認められること、また半側空間無視症例では視野を水平偏位させることで動作の改善がみられることが近年報告されている.おそらく順応の成立には小脳の学習システムが関与し、関節のダイナミクスと視覚座標系キネマティクスの較差の一致には何らかの誤差信号を規範にしたfeedback制御によりなされることが想定される.今回誤差信号を操作することで順応動態に変化が見られたことよりプリズム順応のfeedback モデルを推察した.
【方法】参加者は実験の同意が得られた20歳代の11名の健常学生であった.参加者は机上のLED(発光ダイオード)パネルに対座し、水平位置の三か所にランダムに提示されるLED視標に対しsaccadeと右示指による急速なポインティング運動を行う.プリズム順応の実験プロトコルは三ブロックより構成され第一ブロックは裸眼にて、第二ブロックでプリズム眼鏡(屈折偏位量は12diopter)装着下にてそして第三ブロックは再び裸眼にて各ブロック30回試行した.眼鏡の着脱は閉眼にて行い参加者にはプリズムによる視野への影響は説明しなかった.feedback条件は運動中の手先の位置を周辺視野より遮蔽した条件(5名)と遮蔽しない条件(6名)とした.遮蔽条件では手先の軌道ならびに到達点と視標位置の誤差情報は与えられないことになる.プリズム順応の指標はLEDと指先との水平誤差距離をビデオにて記録した.また参加者がプリズム偏位に気づいていたかどうかを実験後聴取した.
【結果】遮蔽なし条件でプリズム偏位の自覚の有無に関わらず(自覚例3名)全例でプリズム順応を認めた.第三ブロックでのafter effectのサイズは屈折偏位量と同等であった.遮蔽条件ではプリズム偏位を自覚しなかった4名は、順応は生じず第二ブロックの誤差は一定であった.自覚した2名は順応したが第二ブロックの誤差RMS(root mean square)は遮蔽なしよりも大きく、after effectのサイズは屈折偏位量の約40%以下と小さかった.各条件で順応が生じた者は第二ブロックのトライアル誤差の総和(n-1の??)と次回(n)のトライアル誤差との間に強い一次回帰の相関を認めた(遮蔽なしR2=0.796 ありR2=0.519).
【考察】プリズム順応は運動中の運動感覚信号の誤差を用いることでも可能である.誤差検出のための学習モジュールの切り換えには偏位の自覚が関与する.誤差総和量より次回トライアルの誤差予測が可能なことから、feedbackの動特性を検知するモデルとして出力誤差を評価規範とする状態推定の同定モデルを考えた.
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© 2009 日本理学療法士協会
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