抄録
【目的】立位での体幹屈曲動作(前屈動作)は胸腰椎・骨盤の運動の関連性を見るために用いられることがある.しかし,未だ明確な評価基準は考案されていない.例えば前屈動作や前屈位から立位へ戻る動作(復位動作)のパターンを分類できれば,これを指標とする方法もあると考える.そこで今回,健常人を対象として前屈動作・復位動作にパターンがみられるかどうかについて検討することを目的に研究を行った.
【方法】対象は健常者19名(男性12名,女性7名)とした.平均年齢20.3±1.2歳,平均身長167.1±8.8cm,平均体重58.4±10.0kgであった.被検者には実験開始前に十分に説明を行い,同意を得た.直径約2.5cmの球形赤色マーカーを右の肩峰・上前腸骨棘(ASIS)・上後腸骨棘(PSIS)・大腿骨大転子・大腿骨外側上顆・外果に貼り付けた.被検者には肩幅程度に足を開き,前方注視した立位から自由な速さで前屈し,再び立位に復位する動作を3回行ってもらった.動作中は膝を屈曲させないようあらかじめ指示しておいた.安静時と動作時の姿勢をデジタルビデオカメラ(SONY社製TRV-30)で右矢状面から撮影し,パソコンに取り込んだ.記録した映像はフレームごとの画像データに変換し,グラフィックソフトCanvas8(DENEBA社製)を用いて,体幹角度(TA;肩峰-大転子-外側上顆を結ぶ角度)と骨盤角度(PA;ASIS-PSISを結ぶ線の水平線からの角度)を求めた.前屈・復位動作のそれぞれで,TAとPAの角度変化が生じる順序を確認した.また,大転子から床への垂線と外果との距離(大転子距離)を求めて動作中の変化を観察した.安静時の立位アライメント,TAとPA,大転子距離は角度変化のパターンによって異なるか統計的検定を行った.
【結果】体幹・骨盤の角度変化のパターンを観察すると,体幹が先に動くパターン(TA型),骨盤が先に動くパターン(PA型),ほぼ同時に動くパターン(同時型)に分別された.前屈動作のTA型は14名,PA型は2名,同時型は3名であった.復位動作のTA型は5名,PA型は3名,同時型は11名であった.大転子距離のパターンについては,前屈終了直前と復位動作開始直後に大転子が一度後方へ移動するパターンが7名,前屈動作終了直前または復位動作開始直後の一方のみで大転子が後方へ移動するパターンが5名,大転子は後方へ移動しないパターンが7名であった.これらのパターンのうち,復位動作におけるTA型とPA型で復位動作の大転子移動距離に有意な差(p<0.05)が認められた.
【考察】前屈・復位動作の角度変化,大転子の移動距離でそれぞれ3つのパターンが存在することを見いだした.これらは,立位アライメントなどの影響を受けず,一定している傾向がわかった.今後,このパターンをもとに,様々な身体評価との関連性を見出していく必要がある.