理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-080
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理学療法基礎系
失調症患者における陸上と水中での筋活動の特性
長田 幸子新野 浩隆岩本 哲哉大田 哲生鈴木 幹次郎寺林 大史木村 彰男
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キーワード: 水治療, 筋電図, 失調症
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抄録

【はじめに】
失調症患者に対する運動療法として、従来より重錘負荷や弾性包帯を利用した方法が行われているが、近年では水治療が注目され始め、様々な観点からその有用性についての検討がなされている.我々は健常者を対象とした先行研究で、水中での膝関節屈伸運動は、その筋活動の特性から協調性運動障害に対する運動療法として利用できる可能性を示した.そこで今回、失調症患者を対象とし、陸上と水中における膝屈伸運動中の筋活動の特性を分析することで、協調性運動障害に対する水治療の可能性について検討することを目的とした.
【対象】
本研究内容を十分に説明した上で、参加への同意が得られた失調症患者2名を対象とした.
<症例1>左前庭神経鞘腫術後の小脳出血に対する左小脳切除によって、特に左側に(下肢)障害が強い中等度の失調症状を呈していた.検査上、測定障害、変換運動障害、運動の解体を認めた.感覚障害はみられず、歩行は歩行器歩行自立レベルであった.<症例2>橋梗塞により軽度の失調症状を呈し、右側(下肢)に強い変換運動障害を認めた.感覚障害は軽度で、歩行は独歩監視レベルであった.
【方法】
運動条件は、端座位での膝関節90°~0°~90°の屈伸運動を一周期とし、被験者はメトロノームで規定した速度90°/secにて、水中および陸上での膝関節屈伸運動を行った.運動中の内側広筋(VM)、大腿直筋(RF)、内側ハムストリングス(MH)、外側ハムストリングス(LH)の筋活動をマルチテレメーターシステムを用いて測定した.また、膝関節の角度変化を電気角度計を用いて記録した.先行研究に基づき、水中で得られた筋電波形を陸上で記録した波形と同等の筋電波形に変換する処理を行った後、水中筋電波形と陸上筋電波形をそれぞれ整流・単位時間毎の積分・最大随意収縮での正規化を行った.運動の10周期分を加算平均した後、陸上と水中での筋活動を比較した.
【結果】
<症例1>陸上では、伸筋群の筋活動がみられ、屈筋群の筋活動は少なかった.水中では、伸筋群の筋活動に加えて、LHで伸展相中期と屈曲相初期に活動のピークが生じる二峰性の筋活動がみられた.MHは屈曲相での筋活動がみられた.<症例2>陸上では、RFに伸展相だけでなく屈曲相でも著明な筋活動がみられ、他筋は症例1と同様の筋活動がみられた.水中では、MHで症例1のLHと同様の筋活動がみられ、LHは一周期を通して持続的な筋活動がみられた.
【まとめ】
失調症患者の筋活動の特性として、水中膝屈伸運動時に陸上とは異なる屈筋群の二峰性の筋活動を示した.失調症患者では水中運動時に、水中の物理的特性である浮力や粘性抵抗などの抗力に対して等速運動を制御するための伸筋と屈筋の協調的な動きが低下していたと考えられる.今後は、症例数を増やし、水治療の導入に向けて更なる検討を重ねていく.

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© 2009 日本理学療法士協会
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