理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-081
会議情報

理学療法基礎系
手の左右弁別における心的回転の影響
―Reaction timesを用いた検討―
上原 一将新田 智裕東 登志夫菅原 憲一
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

【目的】
近年,ミラーニューロンシステムの発見に伴い,他者の運動の観察や模倣などが運動学習に有効であることが報告されている.模倣による運動学習では,運動イメージの想起が重要となり,これを自在に操作及び変換する統御可能性が必要とされ,統御可能性には心的回転の関与が示唆されている.動作提示場面では,観察者と対面となってデモンストレーションすることが多く,この場合,統御可能性すなわち高度な心的回転が要求される可能性がある.本研究は,手の写真を様々な角度に回転させ被検者に提示する課題(Hand Laterality Recognition Task)を用い,手の左右弁別においてどの提示角度が最も心的回転の影響を受けるか検討することとした.

【方法】
右利き健常成人15名(男性9名,女性6名,年齢26.4±4.1歳)を対象とした.本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいたものであり,被検者に対して十分に説明を行い同意を得て実施した.測定は,PCディスプレイに“右手”,“左手”それぞれの掌側面,背側面の写真を0°,60°,120°,180°,240°,300°に回転させたものを無作為に提示し,“右手”もしくは“左手”と回答するまでのReaction time(RTs)を計測した.RTsはPCにタイムボードをリンクさせ,被験者に“右手”,“左手”に相当するボタンを出来るだけ早く正確に指先で押させた.測定デザインは 2(右手,左手)×2(掌側面,背側面)×6(回転角度)すなわち24回の写真提示を1施行とし,施行間に30秒の休憩を挟み5施行を実施するブロックデザインとした.統計処理は,それぞれの観察角度(0°,60°,120°,180°,240°,300°)のRTsを比較する為にone way ANOVAを用いた.post hoc testは0°を基準としたDunnett法を実施した.なお,有意水準は5%未満とした.
【結果】
それぞれの観察角度(0°,60°,120°,180°,240°,300°)を比較したone way ANOVAでは,右手掌側,右手背側,左手掌側,左手背側すべてで有意な結果となった(p<.05).post hoc testの結果から,“右手掌側”,“左手掌側”,“左手背側”では180°で有意にRTsの遅延がみられた(p<.05).右手背側では,180°と240°で有意にRTsの遅延がみられた(p<.05).
【考察】
本研究結果から180°及び240°で最も心的回転が要求される事が示唆された.従って,模倣による運動学習の場合,心的回転が強く要求される提示方向,すなわち観察者にとって対面(180°)となる方向からのデモンストレーションは身体における左右弁別の難易度が高まり,運動学習の妨げになる可能性が考えられる.今後,観察及び模倣よる運動学習において課題提示方向の違いと学習における習熟度の関係等を検討していきたい.

著者関連情報
© 2009 日本理学療法士協会
前の記事 次の記事
feedback
Top