抄録
【はじめに】
当院の救命救急センターでは、平成14年度より理学療法士が介入し、リハビリテーション(以下リハ)を実施している.これまで当センターでは救命処置が中心であり、ADLはあまり注目されていないのが現状であった.
本研究では機能的自立度評価(以下FIM)に着目し、診療項目別の比較とFIMの変化を分析した.
【対象および方法】
対象は平成18年4月1日から平成20年3月31日の間に当センターに搬送され、リハを実施した患者のうちFIMの評価が行えた27名(男性17名、女性10名、年齢49.2±23.1歳)である.調査項目は年齢、性別、診療項目(脳血管疾患15名、運動器疾患8名、呼吸器疾患4名)、FIM(全身状態が安定した時点とリハ終了時)とした.尚、本研究の趣旨と目的を患者家族に説明し、同意を得た.
解析は診療項目を目的変数とし、FIM(運動・認知項目別)を説明変数とした.3群間の比較はKruskal-Wallis検定とBonferroni型の多重比較を用いた.対応ある2変数の比較はWilcoxonの符号付順位和検定を用いた.有意水準は5%未満とし、統計処理ソフトはSPSS12.0forWindowsを用いた.
【結果】
3群間の比較について、運動FIMは初期/最終で各々、脳血管19.6/44.4点、運動器38.5/74.8点、呼吸器40.7/51.0点であり、各群間に有意差はみられなかった.認知FIMは脳血管14.1/20.9点、運動器34.1/35.0点、呼吸器27.5/28.0点であり、脳血管と運動器でそれぞれの初期・最終のFIMの値に有意差がみられた.
初期から最終のFIMの変化については、脳血管で運動・認知FIMともに有意差がみられた.運動器では運動FIMのみ有意差がみられた.呼吸器では運動・認知FIMともに有意差はみられなかった.
【考察】
診療項目別にFIMの変化と診療項目ごとの比較を行った結果、脳血管と運動器でFIMの改善がみられた.救命センターにおいても、理学療法介入によるADL改善の効果判定として、FIMの把握は重要であるということが示された.
一方認知FIMにおいて、運動器では初期より点数が高値であるのに対し、脳血管の点数は低値となった.一般に外傷は認知障害の出現率が高いとされているが、今回認知面の機能的な改善はあってもFIMとしては低値に止まっている.これについては外傷特有の認知障害の把握と記憶・問題解決を考慮した理学療法介入が重要であると共に、直接的な認知機能への働きかけとして早期からの作業療法の介入も考慮する必要があると思われる.
呼吸器については、呼吸器管理されたまま全身状態が安定したために、Weaning中心のリハとなったこと、症例数が少ないことなどがFIMの値に反映されなかったものと思われる.
今後、更に症例数を増やして検討を行い、当センターでのリハプログラムの改善へ向けた関わりが課題となる.