抄録
【目的】
当院回復期病棟での歩行訓練は,理学療法士だけではなく看護師や介護福祉士など他職種の介入により,日常生活場面でも積極的に実施されている.利用者によって訓練内容に差はあるが,日常生活における歩行場面を増やすことで日常生活動作(以下ADL)や歩行能力に向上を認める場合が多い.そこで今回,各利用者の歩行量を調査し,入院中の歩行量がm-FIMおよび歩行自立度に与える影響を検討する.
【方法】
対象は平成20年5月9日~10月15日までに当院回復期病棟に入院した脳血管疾患利用者のうち,入院時に病棟内歩行が非自立であった18名(男性10名,女性8名,平均年齢69.0±9.4歳)とした.調査期間は歩行訓練開始日~退院日とし,就寝時および入浴時を除き万歩計を終日装着して一日ごとの歩行量を計測した.歩行量の計測にはOMRON社製「ヘルスカウンタステップスHJ-107-K」を用いた.
得られた結果より,歩行訓練開始時のm-FIM合計が50点以上(A群)と50点未満の群に分類した.さらに50点未満の群を歩行訓練開始から一ヶ月間でのm-FIM向上が10点以上(B群)と10点未満(C群)の二群に分類した.これら三群の年齢,Br-stage,入院時・歩行訓練開始時および一ヶ月時点でのm-FIM,歩行訓練開始後一ヶ月での一日あたり平均歩行量を比較検討した.統計にはKruskal Wallis,Mann-WhitneyのU検定を用い有意水準5%とした.なお対象利用者・家族に対して事前に研究の目的を説明し同意を得た.
【結果】
A群は他の二群と比較して年齢,Br-stageには差を認めなかったが,入院時m-FIMは52.8±2.2点であり有意に高かった.また,歩行訓練開始後一ヶ月の平均歩行量は2100.0±832.0歩,歩行訓練開始後一ヶ月間でのm-FIM向上は30.7±5.43点であり,いずれも他の二群と比較して有意に高かった.B群とC群を比較すると年齢,Br-stage,入院時および歩行訓練開始時m-FIMに差を認めなかったが,歩行訓練開始後一ヶ月間の平均歩行量はB群682.5±310.0歩,C群240.7±217.9歩であり,B群が有意に多かった.退院時歩行自立度について,A群では4名全員が自立.B群では自立4名,要監視3名.C群では要監視2名,要介助5名であった.
【考察】
A群では入院時からm-FIM合計点が高値を示し,歩行量も有意に多かった.結果的に歩行訓練開始からの一ヶ月間でm-FIMはさらに向上し,退院時には全員が歩行自立した.つまり,入院時からm-FIMが高い利用者に対しては積極的に歩行量を増やしていく事で,歩行を含めたADLが自立する可能性が高いといえる.B群とC群では入院時の状況に差がなかったが,歩行訓練開始後一ヶ月の時点で一日あたりの平均歩行量に差が生じていた.すなわち,歩行訓練開始後1ヶ月での歩行量が多い場合, m-FIM合計点が10点以上向上し,退院時歩行自立度が監視レベル以上を獲得する可能性が高いといえる.