理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-283
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神経系理学療法
機能改善手術により歩行可能となり長期間歩行機能を維持している脳性麻痺の1症例
楠本 泰士
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抄録
【はじめに】脳性麻痺児・者(以下CP者)に対する機能改善手術として選択的痙性コントロール術や関節固定術などが行われている.これらの術前後を比較した報告は多いが、縦断的報告は少ない.今回、26年前に当院で手術を受け歩行可能となり、長期間歩行機能を維持しているCP者に理学療法を実施し、歩行機能の改善がみられたので報告する.尚、ヘルシンキ宣言に則り症例報告の説明を行いご本人、ご家族の了承は得ている.

【症例紹介】43歳、脳性麻痺の女性.17歳の時に機能改善手術にて歩行獲得を目指す.生後から手術に至るまで、本症例は歩行未獲得であった.1982年3月に右大腿骨外転骨切り術、同年7月に左膝屈曲拘縮除去術を受けた.同年8月に左足、同年11月に右足の全足関節固定術を受け、歩行可能となった.1993年、母親の体調悪化を機に本院併設のひふみ学園(重症心身障害者施設)に入園、現在に至っている.術後から今回の介入まで、専門職によるリハビリテーション(以下リハ)は受けていなかった.

【経過】両足関節固定術後、母親と歩行練習を行い両松葉杖にて約30m介助歩行可能となった.入園後は車椅子自走練習や平行棒内歩行練習を定期的に行っていた.2003年頃からは、週に1回、学園職員と平行棒内歩行を3~5往復行っていた.2年程前から車椅子操作時や歩行時に流涎が見られるようになり、それに伴い各動作能力の低下が目立つようになった.1年程前から車椅子自走時に両股関節屈曲、両膝関節伸展、両足趾屈曲が強くなった.2008年4月より理学療法を開始、週1~2回、2~3単位/回にて実施した.四肢、体幹の筋緊張を整えた後、床上動作練習や端座位保持練習、立位・歩行練習を行った.リハ開始4ヶ月で歩行車歩行を実施、20m 介助歩行可能だった.リハ開始6ヶ月で歩行車にて45m介助歩行可能となった.

【考察】多くの障害者施設では、人員不足により各人に合った運動の機会が十分に取れないのが現状である.本症例も同様で、活動機会の減少に加え加齢による筋力低下により、廃用性筋力低下がより進行していたと考えられる.半年にわたるリハで活動性を確保したことや歩行手段の再検討が歩行距離の延長につながったと思われる.全足関節固定術は、足底接地困難なポリオ患者やCP者、片麻痺患者を対象とし、立位・歩行機能の獲得を目的とし行われる.本症例は手術により下肢のアライメントを整えたことで介助歩行を獲得し、歩行機能を維持している.リハのみでは立位・歩行困難な症例にとって、各関節の安定を得るこれらの機能改善手術は有用と思われる.手術適応には各人の成長時期や全身状態に合った適切な時期が最も必要であろう.
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© 2009 日本理学療法士協会
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