抄録
【目的】
身体イメージは子どもが行為の基礎を形成し、環境に適応するための重要な機能であると考えられている.身体イメージの形成には視覚と体性感覚のクロスモダルトランスファー機能の発達が影響すると考えられている.Buruner(1966)は脳内に形成される外界についての内的表象は成長に伴い「動作的」なものから「映像的」そして「象徴的(言語的)」なものに変化すると述べている.しかし、脳性麻痺児(以下CP児)では自発的な動作が制限されるため、動作的表象の発達が遅れ、それにより身体イメージの形成や知的発達の障害を来たす可能性が考えられる.本調査ではCP児と健常児の視覚と体性感覚のクロスモダルトランスファー機能の違いを明らかにする.
【方法】
保護者から同意を得たGMFCSレベル2から3のCP児7名(平均年齢8.2歳)と健常児12名(平均年齢7.9歳)を対象とした.CP児に重篤な上肢の感覚障害、視覚障害は認められなかった.課題は次の2つを実施した.課題Aでは3種類の形状が異なる(丸、三角、四角)直径4cmの板から1つを提示し、体性感覚情報のみでその形状を識別させた.その後3種類の板を視覚で提示し、識別した板を判断(回答)させた.課題Bでは3種類の大きさが異なる(直径3、6、9cm)丸い形状の板を用いて課題Aと同様の手順で実施した.それぞれ10回試行し、回答と内省(なぜそう判断したか)を記録した.CP児と健常児の正解数を記録し、その比較にはMann-Whitney U testを用いた(有意水準は5%未満).知的能力レベルの評価にはK-ABCを実施し、認知処理過程尺度の標準得点と課題ABの正解数の関係性をみた.
【結果】
正解数は課題Aで健常児10問、CP児9.7±0.5問で有意差が認められなかった.課題Bでは健常児10問、CP児が8.5±1.8問で有意差が認められた(p<0.01).課題が全て正解していたCP児(n=3)はK-ABCの標準得点が80以上であったが、それ以外のCP児(n=4)は標準得点が80未満であった.80点未満のCP児では課題Aが9.5±1問、課題Bが7.5±1.7問であった.課題Aでは「丸、三角、四角」、課題Bでは「指の曲がる角度」「手掌に対して板が触れた面積」という内省が回答後に得られた.
【考察】
課題BにおいてCP児に有意な低下が認められた.一方、内省報告から課題Aは形の名称について、課題Bは体性感覚情報に基づいた意見が得られた.課題Aでは形を言語化して認識できるのに対して、課題Bは体性感覚情報での認識が必要なことが考えられる.以上からCP児は体性感覚情報から視覚情報へのクロスモダルトランスファー機能が低下していることが示唆された.また課題の正解数が低いCP児に知的能力の低下が認められたことは、この機能獲得の遅れと抽象的な概念形成や知的能力の遅れに関係がある可能性が推察された.