理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-338
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神経系理学療法
長期人工呼吸器管理から離脱できた高齢頭部外傷患者の理学療法の経験
百瀬 公人市原 靖子渋谷 秀幸
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抄録
【はじめに】重症頭部外傷患者のリハビリテーション介入適応の有無の判断は急性期に困難とされている.頭部外傷患者では1ヶ月以上意識障害が遷延しても、約25%は日常生活を自立したとの報告もある.このように重度の意識障害で長期臥床となり、肺炎や無気肺などの二次的肺合併症が発生しやすい.高齢頭部外傷患者は日常生活の自立が若年患者に比べ少ないとの報告もあり、廃用障害は高齢患者に強く影響する.したがって、若年頭部外傷患者以上に高齢頭部外傷患者には早期の理学療法介入が必要であると思われる.今回頭部外傷後長期人工呼吸管理を余儀なくされた患者に対する理学療法を実施し、人工呼吸器からの離脱と平行棒内介助歩行が可能となった症例を提示し、理学療法の重要性を報告する.なおヘルシンキ宣言に沿っている.

【症例】94才の女性.受傷前の日常生活は自立.平成20年4月交通事故により受傷、左後頭部硬膜下出血、外傷性くも膜下出血と診断された.高齢でもあり、GCSでE1V1M3であったため、治療は保存療法を選択し、ベッドサイドでの他動的理学療法を開始した.受傷直後から人工呼吸器管理を実施し、1週間後には気切挿管となった.遷延性意識障害のため経口摂取ができないので、1ヵ月後には胃瘻を造設しての栄養管理となった.急性期病院のICUにほぼ2ヶ月入院し、当院へ転院となった.

【経過】転院時の意識レベルはGCSでE4V(T)M4であった.人工呼吸器はSIMV管理で、胸部X線で胸水が認められ、胸水の治療を開始した.右上下肢の運動は見られるも合目的的な運動は不可能で、常時不随意運動が見られた.左上下肢の運動はほとんど認められず、左側の筋萎縮が認められた.
理学療法は積極的に介入し、血圧の管理下にてベッドアップを開始した.1週間後には介助しての端坐位が可能となり、その後車椅子乗車となった.患者の状態の変化に伴い人工呼吸器の設定はSIMVからCPAPとPSへとなった.理学療法中の人工呼吸器管理は理学療法士と臨床工学技師が患者の状態を観察しながら適時行なった.人工呼吸器は転院後3週間ほどで離脱出来た.患者は最終的に平行棒内介助歩行で3往復程度が可能とり、家庭の事情で転院した.

【考察】この症例は2ヶ月間の人工呼吸器管理下では積極的な理学療法を実施していなかったが、その後坐位立位へと積極的運動療法を進め、人工呼吸器から離脱し、平行棒での介助歩行が可能となった.2ヶ月の安静の影響が少なかった理由として、早期の胃瘻による栄養管理と、右側上下肢の不随意運動が、ある程度の体力を維持していたと考えられる.今回は転院を期に積極的に理学療法介入をおこなったが、早期からの積極的介入を行なうと人工呼吸器管理期間の短縮や運動機能の改善が得られると考えられる.

【まとめ】2ヶ月間の人工呼吸器管理となった高齢頭部外傷患者に対し積極的理学療法を実施し、人工呼吸器からの離脱と介助歩行が可能となった.
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© 2009 日本理学療法士協会
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