抄録
【はじめに】筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis;以下ALS)は、通常中年以降に発症し、症状は一般に四肢筋力低下に始まり、球麻痺により構音・嚥下障害が出現、さらに呼吸筋麻痺による呼吸不全に発展していく.このように運動ニューロンが侵される進行性の神経変性疾患である.ALSの好発年齢は、40~50歳と言われていたが最近、臨床場面においてALS患者の高齢化を感じる.今回、2000年~2008年に当院で理学療法を実施した26名のALS患者を対象に発病年齢、発症より自立歩行不能、経管栄養、人工呼吸器使用となった期間、また人工呼吸器使用を希望しなかった患者の割合を実態調査した.
【対象と方法】対象は、当院で2000年~2008年に理学療法を実施した入院および外来通院しているALS患者26名(男性12例、女性14例)分析項目は、発症年齢、発症から自立歩行不能となる期間、26例中6例不明、対象から除外した.発症から経管栄養となる期間、発症から人工呼吸器使用となる期間と人工呼吸器使用を希望しなかった患者の割合を調査した.経管栄養の時期は、経口からの摂取が全くできなくなった時期とした.人工呼吸器使用を希望しなかった患者の割合では不明3例、結論待ち1例、状態急変し余儀なく人工呼吸器装着となった2例、合計6例は対象から除外した.
【結果】1.発症年齢;68±9.9歳 内訳は、50代19%、60代31%、70代35%、80代15%.70歳代発症が、35%と一番多く70~80歳代でも全体の50%を占める.2.発症から自立歩行不能となる期間;25.9±28.8ヶ月、より個人差が大きい結果となった.3.発症から経管栄養となる期間;23.4±17.3ヶ月、4.発症から人工呼吸器使用となる期間;23.4±19.0ヶ月5.人工呼吸器使用を希望しなかった患者の割合は、60%であった.
【考察】結果より平均発病年齢は、68歳で70~80歳代でも全体の50%を占める割合となり、高齢化している傾向が示された.発症から自立歩行不能となる期間は、平均で約2年2ヶ月であり、より個人差が大きい結果になった.文献によると現在の発症年齢平均は65歳程度とし、平均罹病期間として2年半で歩行障害が出現するとしている.同等の結果となった.発症から経管栄養、発症から人工呼吸器使用となる期間は、約2年弱で標準偏差に若干の差はあるが、ほぼ同時期に経管栄養と人工呼吸器管理となる可能性が高いことが示唆された.嚥下障害の進行過程により人工呼吸器装着の時期の指標となるのではないかと思われる.人工呼吸器使用を希望しなかった患者の割合は、60%であった.患者・家族の心理面や精神面また、年齢・症状の進行を考慮しチーム医療の一員として、理学療法士の立場でできる残存機能の維持と緩和ケア、QOL向上に努めたい.