抄録
【目的】パーキンソン病(以下PD)患者では、初期から薬物療法とともに、リハビリテーションを行うことが必要とされている.これまでにも運動療法やパーキンソン体操などの自主トレーニング法が報告されてきた.しかし、個別での指導に要する時間や体操方法に対する患者の理解および自宅で自主トレーニングを継続的に行うことの困難さは、加齢とともに増加することから、これまで行われてきた個別の運動のみでは、十分な効果はなかった.運動教室などの集団での訓練は、引きこもりを予防し、PD患者の活動性の向上や社会参加の機会を高めることが期待される.しかし、PD患者に対する、集団で行える一般化された運動プログラムはほとんどない.こうしたことから、PD患者に対する集団での運動プログラムを開発することは、介助量の軽減、運動機能の維持および転倒による二次的障害の軽減による医療費削減の観点からも重要である.
今回我々はPD患者に対する、自己身体認識向上と姿勢改善を目的とした集団運動プログラムを開発し、その有用性について検討したので報告する.
【方法】自己身体認識向上と姿勢改善を目的とした運動は椅子座位で下部胸椎にボールを当て行うゆっくりとした運動であり、第41回日本理学療法学術大会にて紹介した、運動プログラムを基にして、PD患者の特性を考慮して改良を加えた.
対象は研究の目的と方法を説明し同意が得られたPD患者9名、平均年齢76.4±7.3歳、Hoehn-Yahrのstage1:2名、stage2 :1名、stage3:6名とした.姿勢改善を目的とした運動プログラムの指導方法について説明を受けた理学療法士と作業療法士にて、1回30分間、週1回の集団運動プログラムを2ヶ月間実施した.介入前後で姿勢、握力、肺活量、Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (UPDRS)を評価した.また、自己記入式調査票を用いて、非運動症状である、やる気、うつおよび疲労も評価した.
【結果および考察】8回中6回以上の運動プログラムには6名が参加した.他の1名は月1回、計2回のみ参加、2名は途中で入院のため中止となった.
頻回に参加した5名では、UPDRS得点が改善し、特に日常生活動作においての改善がみられた.やる気スコアとうつスケールおよび疲労は半数以上で改善が認められた.また、初期時に比べ姿勢の改善傾向もみられ、ボールを背中に当てた状態で運動を行うことで、体幹の伸展が困難であるPD患者でも体幹の伸展を促がされたことや常に姿勢をただすことを意識したためと考えた.
【まとめ】週1回の運動プログラムにより運動症状だけではなく、抗PD薬だけでは改善しない非運動症状や姿勢でも改善傾向がみられた.本運動プログラムは有効と考えられる.今後、経過を観ることで運動プログラム実施頻度や指導内容について検討する予定である.