抄録
【目的】パーキンソン病(PD)対する視床下核の脳深部刺激療法(STN-DBS)の姿勢制御への影響については,足圧中心(CoP)を分析する手法が用いられ,動揺の振幅や速度,面積の変化について相反する報告がなされている.また,これらは術後慢性期の評価であり,急性期での変化は明らかでない.そこで我々は,術後急性期における動揺性の特徴を明らかにすること,また,レボドパとSTN-DBSによる姿勢安定性への効果を比較することを目的に,PDの姿勢動揺性を術前・術後に評価した.
【対象】対象はSTN-DBSを目的に当院に入院され,同意を得たPD患者13例(男性7例,平均年齢51.1歳,罹病期間は平均11.3年,Yahrの重症度は平均On 2.2,Off 3.8)である.
【方法】評価は,術前のOffとOn時,STN-DBS術後1週と術後2週時に実施した.CoPの評価には,ニッタ社製マットスキャンを用い(サンプリング20Hz),60秒の開眼静止立位を3回実施した.得られた前後(AP),左右(ML)それぞれの位置データから,mean CoP position(位置),root mean square distance(動揺振幅),mean velocity of CoP displacement(動揺速度),CoP軌跡の95%信頼楕円の面積(動揺面積)を算出し,3回計測の平均値を求めた.また,軸症状は,UPDRSIIの項目13~15とIIIの27~30を各コンディションで評価し比較した.統計は,Paired-T test,Wilcoxon single-rank testを用い有意差は5%未満とした.
【結果】1)レボドパは術後有意に減薬された(p<0.01).また,軸症状も,Offに対し,On 5.2点,術後2週2.3点といずれも有意に改善し(On:p<0.05,術後2週:p<0.01),さらに術後2週ではOnよりも有意に改善した(p<0.05).2)CoPは,Off時に後方変位していたが,Onでは前方21.4mmに変位した(p<0.01).術後1週では後方2.8mmへ,術後2週には前方8.9mmへと変位し,Offや術後1週での後方変位に改善を認めた(p<0.05).3)前後の動揺振幅は,Offの平均29.8mmに比べOnでは31.4mmと差がなかったが,術後2週には17.7mmと減少傾向であった(p=0.067).4)動揺速度は前後,左右方向のいずれもOffよりも速かった(AP:p<0.05,ML:p=0.07).術後1週には,前後左右への動揺速度はいずれもOnに比べ有意に遅くなり(p<0.05),Offと同程度であった.5)動揺面積はOffの平均976.0mm2に対し,Onでは2441.3mm2と著しく増加した(p<0.05).一方,術後の動揺面積はOnに比べ減少し,術後2週で1289.2mm2と有意に小さかった(p<0.05).
【考察・結論】レボドパは,後方重心の改善に有効であるものの,動揺面積の増大や術後の減薬による後方重心を招来した.一方,STN-DBSとレボドパの併用は,レボドパ内服よりも軸症状の改善に有効であり,術後2週間程度で動揺振幅や面積の増大を伴わずに姿勢を安定化させた.術後数週間はCoPの位置や動揺振幅,面積が変化するため,CoPの評価は有用と考えられた.