抄録
【目的】
脳卒中片麻痺に対して当院ではGait solution長下肢装具(以下GS長下肢装具)を積極的に使用している.GSとは足継手の油圧シリンダーにより、前脛骨筋の遠心性収縮を補助し歩行の手助けをする装具である.ヒールロッカー(以下HR)機能による体重の受け渡しや前脛骨筋の遠心性収縮の改善を目的とした下肢の踵接地のトレーニングは、重要な歩行練習の1つである.さらに、長下肢装具を必要とする重症例では、前脛骨筋の廃用予防と筋活動による足部からのフィードバック機能の改善、筋機能の改善に伴い拮抗筋である下腿三頭筋の相反抑制などが期待できると考えている.しかし、GS長下肢装具の適応基準においては明確な基準は定められていない.今回、脳卒中片麻痺に対するGS長下肢装具の適応を麻痺側下肢機能(足関節・膝関節)に着目して検討する.
【方法】
平成20年4月~10月まで当院回復期リハビリテーション病棟に入院し、GS長下肢装具を作成した6名.GSの禁忌条件である「著明な痙性や変形に対して矯正力を必要とする」に該当する症例はいなかった.評価は、脳卒中機能評価法(以下SIAS)と、ビデオ撮影を用いたステップ動作の観察を行った.運動機能においては、SIASの運動機能項目の膝および足関節において、6名中5名が0または1の随意運動困難もしくは動くが足部が床から離れない程度の重度機能障害を呈していた.動作の観察においてはGS長下肢装具を装着し、麻痺側踵接地を含むステップを側方よりビデオにて撮影し、HRの有無を観察した.HRの有無は、踵接地から少し時間を置いて足関節の底屈を伴いながら足底接地が認められるものをHR有とした.ステップの観察は、膝関節リングロックの使用あり(以下ロックあり)と、使用なし(以下ロックなし)の両方で行った.なお対象者全員に本研究の主旨を説明し同意を得た.
【結果】
ロックありのステップ動作では、全例にHR機能が認められた.ロックなしのステップ動作では、全例でHR機能が認められなかった.
【考察】
今回、GSの禁忌条件に該当しない症例においてGS長下肢装具の適応を検討した.足関節の運動機能が重度にも関わらずロックありでは、全例でHRが観察されたことから、GS長下肢装具の適応に足関節の運動機能の重症度を問わないことが示唆された.また、ロックなしの全例において、HRが観察されなかったことより膝関節運動機能は、足継手にGSの適応を検討する際大きな影響を与える可能性が示唆された.