抄録
【目的】脳卒中片麻痺者の歩行レベルは短下肢装具(AFO、P.AFOを総称)を装着し自立している者、歩行能力が停滞し介助、監視レベルに留まっている者まで幅が広い.一般的に短下肢装具で自立できない者の特徴として、膝折れは止まっているが下肢から骨盤帯にかけての不安定性が強いことが挙げられる.AFOは遊脚期のつまずき、若しくは反張膝予防(膝を曲げて歩かせる)に焦点した装具であり、そのため足関節背屈位や底背屈0度のAFOがよく使われている.
今回、回復期リハ病院で処方されたAFOでは近位監視・車椅子生活から脱却することが出来なかった維持期片麻痺者に対し、C.C.AD.Joint付P.KAFO療法を行い屋内歩行が自立レベルに達した.本症例が模擬歩行レベルに留まっていた最大の原因は、遊脚期のつま先引っ掛かりと膝・股・骨盤帯の不安定であった.AFOの背屈位装具でつまずきを解消しようと試みたと考えるが、実際に車椅子生活を強いられていた.今回AFOとP.KAFO療法の適応の違いを明確にし、下肢装具選択ミスと自立度の関連性について検討した.
【対象と方法】57歳、男性、平成19年9月、脳内出血、開頭血腫除去術、11月に回復期リハビリ病院へ転院し平成20年4月までの6ヶ月間、集中的リハを行う.平成20年6月、発症から10ヶ月経過で当院入院.初回来院時の評価 BRS下肢II(一見弛緩性麻痺)、上肢II、手指II.歩行レベルは、T字杖、SHB背屈3度、近位監視レベル、3動作揃い型、10m歩行スピード1分50秒、60歩、重複歩距離17cmであった.本症例の立位姿勢と歩行能力を評価し、どの時点で、どの関節にどの程度の異常サインが出現し、力のLossが発生しているのかを見極め、P.KAFO療法にて歩行能力の改善を図った.
【結果】現在、P.KAFO下肢装具類のセットアップは足継手底屈2度後方制限、背屈フリー、膝継手屈曲8度伸展制限、健側補高2.5cm、股外旋矯正ツイスターである.歩行能力は、T字杖、屋内自立レベル、屋外は遠位監視レベル.2動作前型、10m歩行スピード16秒、25歩、重複歩距離40cm、1日歩行距離1,500m以上となった.
【考察】今回の症例のように、遊脚期のつまずきに対する「AFO背屈位神話」は未だに根強いが、対処療法であり根拠は乏しい.つまずきの原因は1.尖足性下肢仮性延長.2.骨盤下制による下肢仮性延長.3.立脚期が不安定なため、次動作の遊脚期へスムースに移行できない、ことが考えられる.1.の尖足性下肢仮性延長の場合のみAFO背屈位は通用するが、その場合でも、下腿三頭筋の過度なストレッチによる疼痛の出現や痙性が高まり歩行能力が伸びないことも原因であった.P.KAFO療法の考え方は、無理な背屈矯正はせず、膝を制御・安定させ、更に左右下肢の補高調節によって骨盤に1次的介入し、瞬時に骨盤コントロールが可能.以上、維持期からの装具効果を示し、装具の選択ミスだけで自立歩行が阻害されている実態を報告する.