理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P3-307
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神経系理学療法
脳卒中片麻痺患者に対する金属支柱付長下肢装具の足継手設定角度が歩容に与える影響について
塚田 陽一菊池 隼上野 貴大堀切 康平松谷 実榎本 陽介齊藤 理恵強瀬 敏正荻野 雅史本多 良彦田中 直
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抄録

【はじめに】急性期の脳卒中片麻痺患者に対する治療の一手段として装具療法が用いられる.当院も例外ではなく、麻痺側下肢の支持性低下を認める患者に対して、積極的に治療用金属支柱付長下肢装具(以下KAFO)を使用し立位・歩行練習を行っている.一般的にKAFOの膝継手の設定角度は屈曲15°、足継手は背屈10~15°固定が有効とされている.しかし、臨床上足継手を遊動にすることで良好な反応が得られる場合もある.今回、足継手の設定が歩容に与える影響を比較したので報告する.
【対象と方法】対象は本研究の趣旨を説明し同意の得られた67歳男性、発症より30病日目の左片麻痺患者.Br-stage下肢2、感覚重度鈍麻、下肢筋緊張低下.装具は症例の下肢の形状に最も近い既存のリングロック式ダイヤルロック膝継手、ダブルクレンザック足継手のKAFOを使用.膝継手は屈曲15°固定、足継手は床面を基準とし、背屈15°固定(以下A)、底背屈0°固定(以下B)、底屈2°背屈15°遊動(以下C)の3パターンを設定.歩行をビデオ撮影し麻痺側立脚相を中心に矢状面から歩行観察を行った.
【結果】Aでは踵接地は明確に認めるが、足底が床に全面接地する時には矢状面上のアライメントで股関節は足関節直上に位置し、いわゆる足底接地を経由せずに立脚中期へ移行していた.また非麻痺側下肢は踵離地となっていた.Bでは踵接地は不明確であるが、足底接地から立脚中期への移行は明確に認めた.立脚中期のアライメントは頸部・体幹が屈曲傾向にあり、非麻痺側下肢はすでに遊脚中期から後期に移行していた.Cでは足底接地から立脚中期までBと同様明確に認め、立脚中期のアライメントも良好であり、非麻痺側下肢は正常歩行と同じ周期である遊脚初期から中期に移行していた.立脚後期には非麻痺側が立脚初期を迎えるが、この初期接地がAとBでは足先から接地していたのに対し、Cでは踵からの接地となっていた.
【考察】KAFOでの一般的な報告である背屈位固定では、装具による固定性は得られるが、歩行周期中最も支持性が必要とされる立脚初期から中期への過程で足底接地が省略され、下肢の反応を引き出すといった面で不十分となりやすい傾向が伺われた.底背屈0°固定では、膝の支持性を促通する目的で膝継手を15°程度屈曲位に設定すると立脚中期にいたる過程で下肢の前方移動が不十分となり、結果として股関節が後方に残りやすくその代償として体幹の屈曲が生じたと思われる.足継手を遊動にした場合が本症例では最も適切な歩容となった.遊動にすることで足底が床に全面接地する時間が他の設定と比べ明らかに長く、そのことが適切な床反力を得ることにつながり、立脚中期に適切な伸展活動を認め、結果的に非麻痺側の振り出しにも良い影響を与えた.今回は一症例での検討のため断定はできないがKAFOの足継手の設定における一つの示唆にはなると考える.

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© 2009 日本理学療法士協会
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