抄録
【はじめに】
前十字靭帯(以下ACL)再建術後の理学療法の目的の1つに再受傷予防が挙げられ、そのためには動作上のリスク要因を把握する必要がある.それを目的に、我々は昨年の本学会においてPoint Cluster法を用いて骨盤傾斜の違いが側方ステップ時の膝関節運動に及ぼす影響について報告した.しかし、被験者数が少数であったため、今回、被験者数を増加して再度検討したので報告する.
【方法】
対象は、健常成人10名(男性5名、女性5名、平均年齢24.3歳).被験者にはヘルシンキ宣言に基づき、書面にて同意を得た.運動計測には三次元動作解析システム(VICON612)を使用し、肢節に貼付した反射マーカーを記録して、Point Cluster法により膝関節の三次元動作解析を算出した.マーカーは、骨盤に1個、大腿部に11個、膝関節外側裂隙に1個、下腿部に8個、足部に2個の合計23個貼付した.課題動作は、両膝関節約60°屈曲位、骨盤前傾位(以下、前傾位)または骨盤後傾位(以下、後傾位)の立位から側方へステップし、ステップ側下肢で全荷重支持するまでを1動作とした.検討項目は、ステップ側の初期接地からステップ側で全荷重支持となるまでの大腿骨に対する脛骨の最大前後変位量と最大回旋角度とした.なお計測下肢(ステップ側下肢)は左とした.
【結果】
最大前後変位量については、前傾位は平均3.77±7.23mm、後傾位では平均4.17±6.92mmと後傾位の方が前方変位量が大きい傾向を示したが、統計学的有意差は認めなかった.最大回旋角度については、前傾位は平均2.55±4.16°、後傾位は平均4.02±3.66°であり、後傾位の方がより内旋位にあり、統計学的有意差を認めた(p<0.05).
【考察】
矢状面における骨盤傾斜の違いによって、スクワットなど身体重心の前後移動が伴う動作での膝関節運動ならびに力学的ストレスに及ぼす影響については報告が散見されるが、矢状面における骨盤傾斜が、身体重心の側方移動の生じる動作時の膝関節運動を検討した報告は、我々が調べた範囲では見当たらなかった.しかし、ACL再建術後、サイドランジなど身体重心の側方移動を伴う動作をトレーニングとして用いることは少なくなく、そのリスク要因を知る必要がある.今回の結果から、側方ステップ動作において、前傾位に対して後傾位では脛骨の前方移動が大きくなる傾向があり、さらに後傾位では前傾位よりも内旋位にあることが示された.回旋運動の結果については、運動連鎖上、骨盤が後傾すると膝関節は内旋することが関係していることが考えられる.今回の結果から、身体重心の側方移動が生じる動作においても、後傾位は前傾位に対してACLの緊張を高める可能性が示され、サイドランジなどの動作を観察する際にも矢状面における骨盤傾斜にも着目することの重要性が示唆された.