抄録
【目的】大腿骨頚部骨折は高齢者に多く、約7割の症例で受傷後に歩行能力が低下すると報告されている.その要因として、年齢、受傷前歩行能力、片麻痺や認知症の合併等がいわれているが、これらはすべて身体機能低下に影響する要因でもある.当院では、身体機能、歩行能力を定量的に評価するため、Functional reach test(以下、FRT)、10m最大歩行時間(以下、10m歩行)、Timed up and go test(以下、TUGT)、6分間歩行テスト(以下、6MWT)、脚伸展筋力測定を、「体力評価」として定期的に実施している.これらの項目から、当院における大腿骨頚部骨折術後患者の歩行自立度の規定因子を検討した.
【方法】対象は2006年4月1日から2008年9月30日の期間に当院回復期リハビリテーション病棟に入退院した大腿骨頚部骨折術後患者で、他の運動器疾患や認知症を有し、体力評価が困難な者を除外した53名.FIM歩行点の6・7点を自立群、1~5点を非自立群に分類し、年齢、発症から当院入院までの期間、在院日数、退院時における体力評価項目についての比較と歩行自立度を規定する因子の検討を行った.統計学的手法は、対応のないt検定、Kendallの順位相関係数、重回帰分析を用い、有意水準はp<0.05とした.
【結果】自立群は43名(78.8±8.5歳)、非自立群は10名(81.6±8.1歳)であった.両群間の比較においては、体力評価の全項目に有意差を認めた.10m歩行、TUGT、6MWT、両側脚伸展筋力は歩行FIMとの間に有意な相関を認めた.重回帰分析では、多重共線性により解析困難であった10m歩行とTUGTを、それぞれ分けて分析し、10m歩行を除外した場合はTUGT(r=-0.678)、患側脚伸展筋力(r=0.550)、TUGTを除外した場合は6MD(r=0.592)、10m歩行(r=-0.562)、患側脚伸展筋力(r=0.550)が選択された.なお、本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った.
【考察】重回帰分析にて、歩行能力の指標として多用される10m歩行に加え、TUGTが選択されたことにより、歩行自立には、複合的な動作を可能にする動的バランス能力も必要であると示唆された.また患側脚伸展筋力と歩行自立度との相関関係より、患側下肢機能の重要性を確認した.さらに運動耐容能の指標として用いられる6MWTも選択されたことより、実用的な歩行に必要な速度、動的バランスを含んだ総合的なパフォーマンス能力、運動耐容能、患側下肢筋力が歩行自立の規定因子として重要であると考えられる.