抄録
【はじめに】前回の本学会で,術前理学療法の実施が術後可動域の回復に強く影響していることを報告した.今回,肩腱板断裂手術例において,術前理学療法の実施が術後成績の改善に有効かどうかを明らかにする目的で,患者満足度を含めた術後臨床成績を経時的に調査したので報告する.
【対象】本研究の趣旨を説明し同意の得られた肩腱板断裂術後1年以上を経過した広範囲腱板断裂を除く109例109肩から,術前理学療法を実施しなかった初期の30肩(以下,未実施群)とプログラムが確立された術前理学療法を実施した最近の30肩(以下,実施群)の2群を任意抽出した.2群間では,術前肩関節可動域,性別,左右別,手術時年齢,断裂サイズおよび術前UCLAスコアにおいて有意差を認めなかった.なお,術前理学療法の実施内容は,肩関節周囲筋や肩甲帯筋のストレッチング,肩甲上腕関節や肩甲胸郭関節の関節可動域練習,および肩関節周囲筋や肩甲帯筋のリラクゼーション練習を施行した.
【方法】術前,術後3ヵ月,6ヵ月および12ヵ月において,UCLAスコアの各項目について評価を行った.評価項目は,pain・function・active forward flexion・muscles strength・patient satisfactionについて評価した.ただし,patient satisfactionは100点満点で自己評価してもらった.次に,それぞれの時期において,すべての項目について2群間での有意差検定を行った.なお,UCLAスコアの比較にはMann-Whitney’s U test を用いて行い,危険率5%未満を有意差ありとした.
【結果】術後3ヵ月では,pain,active forward flexion, およびpatient satisfactionの項目において実施群が未実施群より有意に高得点であった(p<0.05,p<0.05,p<0.05).術後6ヵ月と1年では,すべての項目において2群間で有意差を認めなかった.
【考察】今回の結果から,術前理学療法の実施が術後3ヵ月での疼痛および可動域の改善に強く影響しており,結果的に患者満足度も高くなることが分かった.