抄録
【はじめに】人工膝関節置換術(TKA)の術後において,日常診療の効率化や入院日数の短縮のため多くの施設でクリニカルパスが導入されている.当院においても,TKA後3~4週を退院としたクリニカルパスを用いており,術後のリハビリテーションを円滑に実施するためには、術前から術後経過を予測することは重要である.しかし、術前の運動機能や身体的特徴などの因子が、TKA術後の杖歩行獲得までに要する期間にどのような影響を与えるかを検討した報告は少なく、不明な点が多い.本研究の目的は、TKA施行患者の術後の杖歩行獲得に要する期間に影響を及ぼす術前の因子を明らかにすることである.
【対象】TKAを施行された男女43名(男性5名、女性38名、年齢68.4±11.1歳、BMI 24.9±3.7 kg/m2)を対象とした.対象者の原疾患の内訳は、変形性膝関節症23名と関節リウマチ20名であった.対象者に本研究の趣旨と目的を詳細に説明し、参加の同意を得た.
【方法】測定項目は、術前の歩行能力、手術予定側の膝関節可動域・片脚立位時間・下肢筋力・膝関節機能を評価した.歩行能力としてTimed up and go test(TUG)を測定した.関節可動域はゴニオメーターを使用して他動的に5度刻みで予定術側膝関節屈曲,伸展可動域を計測した.下肢筋力は、Isoforce GT-330(OG技研社製)を用いて等尺性の膝伸展筋力を測定し、トルク体重比(Nm/kg)を算出した.膝関節機能は、Japan Knee Osteoarthritis Measure(JKOM)を用いて評価した.また、術後杖歩行獲得期間は、TKA施行後から理学療法士が病棟内杖歩行を許可した日数までの期間とした.統計処理には、杖歩行獲得期間を目的変数、年齢、性別、BMI、原疾患(変形性膝関節症と関節リウマチ)、TUG、膝関節可動域、片脚立位時間、膝伸展筋力およびJKOMを説明変数としたStepwise重回帰分析を行い、統計学的有意基準は危険率5%未満とした.
【結果と考察】杖歩行獲得期間は6~30日であり、平均16.1±5.9日であった.TUGは13.6±6.1秒であった.膝関節可動域は、屈曲は123.4±14.7度、伸展は-10.4±7.7度であった.片脚立位時間は7.1±8.6秒であった.膝伸展筋力は0.83±0.39Nm/kgであった.また、JKOMは81.6±16.5であった.重回帰分析の結果より,片脚立位時間、原疾患が説明変数として選択され,各説明変数の標準偏回帰係数は片脚立位時間で-0.38,原疾患で-0.32であった.以上から、術前の片脚立位時間が長く、原疾患が関節リウマチであれば、TKA施行後における杖歩行獲得期間が短くなることが示され、これらの因子はTKA施行患者の術後経過を予測する上で有用な指標であると考えられた.