理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P1-475
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骨・関節系理学療法
足趾外転運動が片脚立位バランスに及ぼす即時効果
松本 圭司隅田 陽子淵岡 聡
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抄録

【目的】近年、高齢者の転倒予防対策の一つとして、様々な足趾トレーニングが紹介され、足趾屈筋力及び足趾機能と立位バランスとの関連が研究されている.今回、日常的に実施する機会の少ない足趾外転運動に着目し、足趾外転トレーニングが片脚立位時の重心動揺に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、高齢者への応用を前提として健常成人を対象とした基礎研究を実施し、若干の知見を得たので報告する.
【対象】下肢に整形外科的及び神経学的疾患既往のない健常成人女性15名両側30肢を対象とし、トレーニング群9名(年齢35歳±10.6、身長156.0cm±3.2、体重47.6kg±4.0)、対照群6名(年齢33.2歳±5.8、身長158.8cm±5.4、体重51.6kg±7.4)に無作為に分類した.対象者には研究内容を十分に説明し同意を得た.
【方法】トレーニング群には、端座位姿勢で足趾外転を視覚で確認させながら、施行可能な最大可動域まで自動的に外転運動を5分間行わせた.測定項目は足幅、膝伸展筋力、安静時及び外転時の母趾-示趾間距離(以下安静母示距離、外転母示距離)・示趾-小趾間距離(以下安静示小距離、外転示小距離)、片脚立位時の重心動揺(外周面積、総軌跡長、位置ベクトル長)、足趾屈筋力とし、トレーニング前後に測定した.対照群はトレーニングを実施せず測定前後で左右それぞれ5分間のインターバルを設定した.統計処理は、それぞれの測定項目のトレーニング及びインターバルの前後の平均値の差を比較するため対応のあるt検定を用い、危険率5%未満を有意水準とした.
【結果】トレーニング群は、トレーニングの前後で安静母示距離(p<0.01)、安静示小距離(p<0.05)、外転母示距離(p<0.05)、外周面積(p<0.05)、総軌跡長(p<0.05)、前後方向の位置ベクトル長(p<0.05)、足趾屈筋力(p<0.05)に有意な向上がみられた.対照群では全項目においてインターバル前後の差はみられなかった.
【考察】本研究におけるトレーニングは足趾外転運動を賦活するものであり、筋力強化を目的としたものではない.トレーニングによって安静母示距離、安静示小距離、外転母示距離に拡大がみられ、足趾屈筋力に向上がみられたことは、外転運動により足趾外転に関与する筋群が賦活された結果と考えられる.前後方向の位置ベクトル長が減少したことは、前後方向の重心動揺が減少したことを意味している.これは安静母示距離、安静示小距離の拡大により、足趾機能が発揮しやすくなり、片脚立位時に床面に接している足趾の運動様式が変化することによって、より小さな前後径でバランスを保持することが可能となったためと考えられる.これらのことから、外周面積と総軌跡長が改善した可能性が考えられ、足趾外転運動は片脚立位時の重心動揺を向上させる効果があったと考えられる.今後は高齢者を対象とした実験を行い,立位バランス向上につながる運動方法の確立を目指したい.

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© 2009 日本理学療法士協会
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