抄録
【目的】
膝屈筋腱を用いた膝前十字靱帯(以下ACL)再建術では下腿内旋作用を担う半腱様筋腱(以下ST)・薄筋腱(以下G)が使用される.現在までに我々は下腿内旋筋力に関して、再建術後の回復が膝関節伸展・屈曲・下腿外旋筋と比べ遅延すること、健常女性において下腿回旋筋力がアライメントに影響を及ぼすことを報告した.女性は膝関節外反・下腿回旋を呈しやすいことから回旋に作用する内旋筋採取の影響は男性よりも受けやすいと考える.今回ACL再建術後の下腿回旋筋力を性差に着目して経時的に調査したので報告する.
【対象および方法】
2004年11月から2007年8月の期間に当院にてST・Gを用いACL再建術を施行し、本研究の主旨を十分説明し同意を得た症例26名(男性11名、平均年齢23.5±4.3歳、女性15名、平均年齢24.2±4.7歳)を対象とした.術後は当院のACL術後プログラムに準じて施行した.測定機器にはLUMEX社製CYBEX770を用い患側と健側の膝関節周囲筋力を角速度180deg/secの等速度運動で測定した.測定時期は術前および術後3・6・9・12ヶ月で行った.体重比トルク値(Nm/kg)を算出し男女の筋力を各測定時期で比較した.統計処理は分散分析と多重比較を用い、危険率5%未満とした.
【結果】
健側伸展筋力の体重比トルク値は各測定時期において女性/男性は0.7/1.0であった.健側下腿内旋筋力の体重比トルク値は各測定時期において女性/男性は0.8/1.0であった.ST・G採取後の3・6・9・12ヶ月において健側と比較し有意に下腿内旋筋力が低い.受傷後、再建術前の女性では健側に比較し患側が有意に高かった.回復経過においては、男性は術前と比較し6ヶ月、女性は9ヶ月で有意に回復した.
【考察】
受傷後、再建術前の女性に下腿内旋筋力が健側に比較し患側が有意に高かった理由として大腿四頭筋力に劣る女性は、膝崩れの不安感から下腿内旋筋優位の筋性防御が働いている可能性が示唆された.術後男女共にST・G採取の影響があるものの男性に比し女性の下腿内旋筋力の回復が遅れる原因としては、我々の先行研究で報告した健常女性において下腿内旋筋力がアライメントに影響を及ぼすことからも女性特有のアライメントが関係している可能性が示唆された.ACL再建術後のリハビリテーションにおいて性差は考慮すべき因子と考えられた.