抄録
【はじめに】アキレス腱縫合術後リハビリテーションにおいて片脚カーフレイズ(以下CR)の獲得が社会復帰・スポーツ復帰に向けての1つの目標となる.本研究の目的は,アキレス腱縫合術後のCRの獲得と関係性のある因子を検討し,術後リハビリテーションの評価・治療方法の一助とすることである.
【対象】対象は片側アキレス腱縫合術後患者6名(男性2名 女性4名 平均年齢38.8±13.1歳 体重56.5±9.4kg 身長159.8±5.9cm)で,術後経過期間は32.5±7.1週であった.なお対象症例において足関節底屈可動域(自動,他動)に健患側差はなかった.被検者にはあらかじめ研究目的、内容を説明し同意を得た.
【方法】計測項目は,健患側のCRの高さ(以下CR高),荷重位膝関節伸展位足関節背屈角度(以下KE背屈),荷重位膝関節屈曲位足関節背屈角度(以下KF背屈),足関節底屈筋力を測定した.なおCR高はバランスをとる程度に支持した片脚立位で,足関節外果最突出部にマーキングし,片脚立位とCR時の外果の高さの差を計測した.また,足関節底屈筋力はハンドヘルドダイナモメーター(日本メディックス社製MICROFET2)を使用し,西上らの方法に準じ腹臥位,膝関節伸展位,足関節底背屈中間位での等尺性収縮の値を3回計測し,最大値を体重で除した値を用いた(以下WBI).全ての値について健患側差を用い検討した.統計学的処理は,CR高と上記3項目をPearsonの相関係数を用いて検討し,相関係数の高いKF背屈とWBIを用い重回帰分析を行った.なお有意水準は5%未満とした.
【結果】相関係数は,CR高-KE背屈(r=-0.22)CR高-KF背屈(r=0.57)CR高-WBI(r=0.91).重回帰分析の結果はR2=0.85 P<0.05であり有意であった因子はWBI(P<0.05)であった.
【考察】本研究結果から,アキレス腱縫合術後のCR高の獲得と足関節底背屈中間位での足関節底屈の等尺性筋力に関係性があることが示唆された.諸家らが述べるように,筋出力を向上させるためには筋の自然長でのトレーニングが最大張力を発揮でき,効率もよいとされている.ゆえにアキレス腱縫合術後のリハビリテーションにおいても足関節底背屈中間位(自然長)付近でのトレーニングが足関節底屈筋の短縮位での収縮であり,等張性収縮であるCR高の獲得に繋がる可能性が示唆された.しかし,アキレス腱縫合術後における腱の滑走性の回復との関係やCR高の獲得には筋力だけでなく収縮速度(スピード)も含めたパワーの考慮も必要である.