抄録
【目的】
前十字靭帯(以下ACL)再建術は術後6ヶ月以降、筋力が健側と比較して80%以上回復していればスポーツ復帰が許可される場合が多い.しかし臨床では筋力回復が遅延する症例が散在する.今研究の目的はACL再建術における術後筋力回復不良要因を明らかにすることである.
【対象】
平成15年10月1日から平成19年9月30日の間に、当院でACL再建術(再建材料は半腱様筋・薄筋)を施行した患者134例(男性65例、女性69例、平均年齢25.1±9.3歳)
【方法】
ACL再建術施行患者の筋力を術前と術後3、6、9、12ヶ月に測定した.筋力の測定はCYBEX NOREを用い角速度は60°/秒、5回反復して計測し、膝伸展筋力のピークトルク値を筋力として採用した.術後1年での筋力の患健比を術後筋力回復の指標として、多重ロジステック回帰分析を行った.目的変数を術後1年で膝伸展筋力患健比が80%以下の患者、説明変数を性別、年齢(10代、20代、30代以上)、受傷から手術までの期間、受傷機転、半月板損傷の有無や処置方法、術前膝伸展筋力の患健比とした.統計学的分析はExcel統計2006を用い、有意水準は1%とした.尚、本研究はヘルシンキ宣言に沿って行われた.
【結果】
術後1年で膝伸展筋力患健比が有意に低下した項目は、30代以上(オッズ比5.88、95%信頼区間、2.62-13.17、p<0.0001)、術前の患健比が80%以下(オッズ比3.08、95%信頼区間、1.35-7.15、p=0.009)の2項目であった.尚、各年代の術前患健比は有意差を認めなかった.
【考察】
30代以上のACL再建術施行患者は、術後1年での筋力回復は若年者と比較して有意に低下していた.その要因として若年者は大会などが多く、大会出場を目的として競技復帰を図るために部活動などを通じてトレーニングを行うことが可能だが、中高年は大会が少なく目標設定が困難である.そのことがモチベーションの低下による筋力回復不良を招いたのではないかと考える.さらに30代以上は若年者と比較して日常生活において下肢運動を行う機会が少ないなど、下肢を余り使用しない生活様式が影響したのではないかと考える.また術前膝伸展筋力患健比が80%以下であった患者は、術後1年が経過しても膝伸展筋力患健比は有意に低下していたことから、特にスポーツ復帰を目指す場合には術前に筋力低下を招かないよう十分な運動療法が必要である.
【まとめ】
ACL再建術における術後筋力回復不良要因として、年齢が30代以上である事、術前の膝伸展筋力患健比が80%以下である事が明らかになった.