理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-399
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骨・関節系理学療法
プロボクサーのboxer's knuckleに対する理学療法
―試合を間近に控えた一症例―
宮澤 一大槻 穣治森田 健森田 良治松山 優子横山 祐依
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抄録
【目的】繰り返し殴打による、第2~5指のMP関節背側軟部組織の損傷に伴う指伸筋腱脱臼はboxer’s knuckleと称され、多くのプロボクサーに認められる.しかし、理学療法(以下PT)介入の報告は少ない.今回、試合を間近に控えた現役日本ランカーであるプロボクサーのboxer’s knuckleに対してPTを試みたので報告する.

【症例紹介】31歳 男性 身長176cm 体重69.8kg 職業:プロボクサー(日本スーパーウェルター級7位:当時)本症例報告の目的を説明し、書面にて同意を頂いた.

【現病歴】日本ランク1位の選手と対戦し、試合中右拳で相手の頭を殴打し受傷.利き手で強打出来ず、試合にも惜敗する.試合後、第2~3指MP関節周辺に疼痛増強、腫脹(+)、第2指伸筋腱尺側にズレ(+).医務室にてboxer’s knuckleと告げられ、固定処置される.3週間の安静にて疼痛半減したものの握りに違和感残存.この時点でランク3位の選手から対戦オファーあり.受傷日から試合日まで12週間しかなく、拳に不安残っていたが、敗戦の悔しさから受諾する.しかし、この後十分な改善みられず、受傷後6週、試合まで6週となって当院受診、PT開始となる.

【初期評価】主訴:とても拳で打撃できない.NRS:安静時1~2(打撃したら間違いなく8以上予測されるとのこと) 腫脹:第2~3指MP関節背側(+) X-P:骨傷(-) CRP:0.02mg/dl 握力:右50kg(左55kg) MP関節屈曲にて第2指に伸筋腱の尺側脱臼認められ、違和感強く訴えあり.joint playにタイト感あり.

【経過】安定性・可動性・筋出力の向上など、関節機能の再獲得を目指したPTを施行した.併行して軟部組織の損傷ダメージの治癒促進を目的に低出力超音波療法を実施した.初期設定は3MHz、パルス波20%、強度0.5W/cm2、10分/1回として4~5回/週実施した.実施3週後にNRS安静時0(朝1~2)となったため、漸増的に打撃練習開始.試合前には損傷部位をサポートするよう工夫したテーピングを実施した.試合には判定勝ちし、アフターフォローにより疼痛・腫脹は最低限に抑えることが出来た.

【考察】boxer’s knuckleは、指伸筋腱を固定している矢状索と骨間筋腱帽で構成されるhoodが損傷されることが原因とされるが、このhoodはMP関節屈曲の安定化にも大きく関与している.また、intrinsic muscleとextrinsic muscleの共同運動を可能にし、指のバランスの保持にも重要な役割を果たしている.指伸筋腱が融合している関節包が断裂していることも多い.疼痛だけでなく、出力の低下・違和感を訴えるのはこのためと考えられる.複雑な指背腱膜構造の理解がPT実施にも要求される.重症度にもよるが、保存的に関節機能の回復が図られ、組織再生の治癒過程が促進されれば、選手にとって非常に有益である.今後症例数を増やすとともに、適切なPT・超音波の設定・予防テーピング法など更なる検討をしていきたい.
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© 2009 日本理学療法士協会
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