抄録
【目的】
前回大会において膝前十字靭帯(以下ACL)再建術後の超早期運動療法(以下2平面DYJOC)による術後3ヶ月(以下3M)の膝屈曲筋力について旧運動療法群と検討し、報告した.2平面DYJOCは下肢先端での2平面同時運動様式であるため、膝関節に対しては動的関節制御(以下DYJOC)同等の効果が得られ、安全性についてはそれ以上のものが期待されると考えられる.今回、競技練習開始基準としている術後6ヶ月(以下6M)の膝屈曲筋力測定値が得られ、2平面DYJOCの効果について若干の知見を得たので報告する.
【対象および方法】
平成19年3月~平成20年3月に当院にて自家半腱様筋と薄筋を用いた解剖学的2重束再建による方法でACL再建術を受けた58名中、半月板処置や骨軟骨移植術を除き2平面DYJOCを施行したA群13名(男性7名、女性6名、年齢平均26.9±8.1歳)と旧運動療法を施行したB群7名(男性5名、女性2名、年齢平均21.4±7.1歳).倫理規定について、対象者には事前に訓練及びデータの使用について承諾を得た.
当院のACL再建術後運動療法は再建ACLに対して愛護的で効果的な下肢荷重連鎖の概念による筋力低下を予防する目的で行っている.スクワットや早期歩行訓練、DYJOCなどを行ったB群とそれに追加して2平面DYJOCを患側のみ術後1ヶ月間施行したA群の両群間の角速度60deg/secの等速性膝屈曲筋力のトルク体重比(%BW)と患健側比を術前、3M、6Mで比較した.等速筋力測定装置にはCYBEX340を使用し、統計処理は分散分析を用い5%を有意水準とした.
【結果】
A群の平均膝屈曲筋力は患側が術前64.7±25.6、3M82.5±31.4、6M101.7±34.0、健側が術前84.1±30.3、3M92.6.±25.0、6M111.3±33.2であり、B群の平均膝屈曲筋力は患側が術前101.3±35.6、3M86.9±31.9、6M103.9±34.7、健側が術前105.2±34.3、3M117.9±36.7、6M117.3±33.2で患側には両群間に有意差が認められたが健側には認められなかった.患健側比はA群が術前82.3±39.9%、3M91.8±34.3%、6M91.0±14.3%、B群術前96.1±16.2%、3M72.9±10.3%、6M87.3±10.7%で両群間に有意差は認められなかった.
【考察】
田邊らは患側膝屈曲筋力が術後1ヶ月で有意に低下し、3Mで術前レベル、6Mで健側レベルに回復すると報告している.今回、膝屈曲筋力は健側には有意差が認められなかったため、両群間における術前運動習慣に差はないと考えられる.患側では3MでA群が高く、B群は低い傾向にあり、6Mで同程度であった.また、患健側比では有意差が認められないがB群において3Mに80%以下となることから、筋力増強に対する2平面DYJOCの効果があることが示唆された.