抄録
【目的】
一般的にACL再建術は、解剖学的二重束再建として前内側線維束(AM)、後外側線維束(PL)の2本の機能線維束の再建が行われてきた.しかし、我々は膝関節固有感覚機能を重視し、遺残ACL(レムナント)を温存するACL一束靱帯補強術(靱帯補強術)を行っている.
今回我々はレムナントを温存する靱帯補強術を行った患者の固有感覚の経時変化について検討したので報告する.
【方法】
対象は当院整形外科で靱帯補強術を行ったACL損傷患者9名(男性3名・女性6名、平均年齢23±19歳)である.AM再建は2例、PL再建は7例であった.
固有感覚として運動覚を評価した.測定方法は電動モーターで角速度を0.1°/secまで可変設定が可能でコンピューター制御作動する固有運動・位置覚測定装置(センサー応用社、広島)を用いた.1)膝関節15°位置からの屈曲、2)伸展方向(15°屈曲・伸展)、3)45°位置からの屈曲、4)伸展方向(45°屈曲・伸展)の4項目について、術前、6ヶ月後、12ヶ月後に検査を行い、それぞれの運動覚角度誤差を絶対値で表した.
術前・術後6ヶ月・12ヶ月の3項目についてBonferroni/Dunn法(P<0.05)を用い、多重比較検定を行った.
対象には膝靱帯再建術の術前検査の一部として当固有感覚検査が施行されており、データ収集は患者の同意の元、ヘルシンキ宣言に基づき必要な術前検査の一部として行われた.
【結果】
それぞれの時期の傾向を示すため各々の平均値を検討した結果、運動覚4項目全てにおいて術前に比し12ヶ月後で改善が認められた.
術前に比し、15°伸展:12ヶ月後の値および45°屈曲:術後6ヶ月後・12ヶ月後の両方の値、各々において有意に差が認められた.
【考察】
レムナント温存によってSingle hop testなどで機能的パフォーマンスが良好であるという報告はあるが、固有感覚の経時的な変化についての報告はない.今回の研究では、運動覚4項目について術前よりも12ヶ月後の固有感覚が改善した.固有感覚の改善は、膝関節機能的パフォーマンスの改善に寄与すると考えられているため、今後固有感覚回復時期のバランストレーニングなど神経筋トレーニング介入効果を検討すべきである.また、従来の解剖学的二重束再建術後の固有感覚の回復時期は術後6ヶ月から3年と様々であるため、二重束再建術と靱帯補強術の比較や、AM、PL再建各々での検討を行うことが必要である.