理学療法学Supplement
Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: P2-422
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骨・関節系理学療法
変形性膝関節症の降段動作分析
―運動学的データの解析を基に―
徳田 一貫合津 卓朗田中 泰山阿南 雅也木藤 伸宏
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抄録
【目的】降段動作とは、一側下肢で身体を支持した状態で膝関節を屈曲し身体重心(center of mass,以下COM)の下方移動を制御する動作であり、内側型変形性膝関節症(以下,膝OA)の臨床症状として,降段時の疼痛や動作遂行困難等はよく見られる.そこで本研究では、臨床症状・動作困難に繋がる運動戦略の関係を運動学的分析にて明らかにすることを目的として行った.
【方法】本研究はヘルシンキ宣言に基づき、当院の倫理委員会の承認を得た上で、被験者に研究の説明を行い,同意を得た後に実施した.右膝OAと診断された70歳代後半の女性1名、さらに既往に下肢・脊椎疾患がなく日常生活に膝や腰部に疼痛を生じない30歳代前半の健常女性1名を対照者とした.膝OAの病期分類はKellgren-Lawrence分類IV.FTAは185°.膝JOA-scoreは右50点、左50点であった.課題動作は20cmの高さから右下肢を支持脚として左下肢を床へ接地する動作とし,静止立位から右下肢の足先離地までを計測した.運動学的データ計測は被検者の左右の肩峰、胸骨上縁、肋骨下縁、上前腸骨棘、上後腸骨棘、大転子、股関節(大転子中央と上前腸骨棘とを結ぶ線上で大転子から1/3の点)、膝関節(大腿骨遠位部最大左右径の高さで矢状面内の膝蓋骨を除いた幅の中央点)、外果,第5中足骨骨頭にマーカーを貼付し、デジタルビデオカメラを用いて30 flame/sにて画像を記録した.その画像から臨床歩行分析研究会の推奨する推定式にて関節中心点座標とCOM座標および身体体節角度を算出した.データ解析は動作開始から足関節最大背屈までの股関節外転、膝関節内反、上部体幹側屈(胸骨上縁、左右肋骨下縁の中点を結んだ線と左右肋骨下縁の中点と両大転子中点を結んだ線のなす角度)、骨盤傾斜、肩峰傾斜を比較・検討した.
【結果】健常者では動作開始から足関節最大背屈までのCOM軌跡は垂直下降へ移動するのに対し、膝OA患者では立脚側へ大きな移動を伴いながらの下降移動をしていた.関節角度変化は、健常者では骨盤傾斜、肩峰傾斜角度は立脚側へ傾斜し上部体幹が遊脚側に傾斜するのに対し、膝OA患者では骨盤・肩峰は遊脚側へ傾斜し、上部体幹が立脚側へ傾斜した.また、健常者に比べて股関節外転、膝関節内反角度が増加した.
【考察】膝OA患者における降段動作の特徴として、股関節外転、上部体幹側屈、骨盤傾斜角度の変化から、骨盤・体幹部の安定性低下によりカウンターウェイトとして上部体幹側屈増大、膝関節内反を増大させる事で立脚側へのCOM移動を行い、膝関節内側への圧縮が増大した状態で下方への重心制御を行っている事が示唆された.理学療法戦略としては、股関節・体幹機能を高める事で支持期底面内に体幹を保持し、膝関節内反・体幹側屈増大による立脚側への過度な重心移動を減少させる事が重要であると考えられる.
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© 2009 日本理学療法士協会
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